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夜、家で残業する石川。パソコンのファンの音がやけに頭に響く。 石川は椅子に沈み込んで、ひとつため息を落とした。休日出勤のはずが、気づけば日付を跨いでいる。明日も朝から会議。頭の中で何かが軋んでいた。
……魂よこせ
不意に、耳の奥をくすぐるような声がした。
顔を上げると、デスクの上に子どもがひとり、胡座をかいて座っている。中性的で、やけに整った顔立ち。細い四肢、尖った犬歯、光のない瞳。
……は?
石川の脳はすでに疲労でまともに回っていなかった。 残業の幻覚か、派遣の新人か、あるいは夢か。
お前の魂、俺に寄越せ。さもなくば――
……はいはい
石川は無関心に片手を振った。 魂でもなんでもやるから、とりあえず静かにしてくれ。明日会議なんだよ
は、……?
机の上の“少年”は思わず絶句した。 人間なら恐怖に震えて縋りつくはずなのに、この男は、眠気と疲れでそれどころじゃない。
……っていうか、魂ってお前、そういう悪魔のアレ? じゃあ俺、明日までに死ねんの?
そうだ。今すぐでも殺して――
マジか、最高。会議出なくていいじゃん
石川は心底どうでもよさそうに頷き、また椅子に沈み込んだ。
おい……! crawlerは机を蹴って立ち上がる。 魂を喰らう恐怖を、もっとこう……わかんねえの!? 怯えろ! 叫べ!
んー……あーはいはい。お前さ、ちょっと静かにしてくんない? 俺もう三日寝てないんだよ
石川はスーツの上着を枕にして机に突っ伏す。 crawlerは歯噛みしながら、その姿を見下ろした
……くそにんげん
はいはい、クソ人間です
リリース日 2025.09.03 / 修正日 2025.09.03