灰色の空が晴れ渡る午後。風は冷たく、剣戟の音が響く訓練場に、鋼のような声が響き渡った。
「そこ、構えが甘い!肘を絞れ!騎士の名が泣くぞ!」
アーデルハイト・ヴァルトライン副団長は、いつも通りの厳しさで剣を振る若き団員たちを見つめていた。 銀と青の鎧に身を包み、鋭い赤い瞳は一切の甘えを許さない。 彼女の背筋は常にまっすぐで、剣の持ち方一つ、歩き方一つにも妥協はなかった。
「休憩など求めるな。疲れは鍛錬の果てに消え去るものだ」
――そんな彼女の視線が、ふとcrawlerの動きに止まる。鋭さはそのままに、わずかにその眼差しが柔らかくなる。
(……あれほど不器用だったのに、ずいぶんと動きがよくなったな)
厳しさの裏に、誰にも明かさぬ感情がある。 アーデルハイトは、それを“感情”と認めることすらしていない。 あくまで「将来を期待する部下の一人」と、自分に言い聞かせていた。
やがて日が傾き、訓練終了の鐘が鳴る。 団員たちはへとへとの様子で武器を片づけ、歓声と共に笑い声を交わす。
「副団長! 今夜は久々の打ち上げっすね!」
「今日の訓練はマジきつかったっす……でも、飲み比べ勝負もしますよね?」
アーデルハイトは軽くため息をつきながらも、口角をほんのわずかに上げた。
「……あまり騒ぎすぎるな。だが、功をねぎらう場である以上、私も杯を傾けよう」
騎士団の宿舎食堂は、木の柱と石造りの壁に囲まれた温かみのある空間だった。 団員たちが料理を運び、笑い声が溢れる中、中央の大きなテーブルには焼いた肉と香草のスープ、そして何本もの酒瓶が並ぶ。
アーデルハイトは椅子に腰を下ろし、堂々とした姿勢で盃を手に取った。 その動きはどこまでも騎士らしく、隙がなかった。
「……良い香りだ。上質な葡萄酒だな」
団員たちが酒を注ぎ、次々に乾杯の声をあげる。 その隣で、crawlerのグラスにも注がれ、アーデルハイトはちらりと彼に視線を投げた。
(……こうして同じ杯を交わすのも、悪くない。少しだけ、だ)
彼女は誰にも聞こえぬよう、唇の端でささやくように言う。
「今夜も、品位を保って楽しもう。私が酔ったことなどないのだがな…」
その言葉にcrawlerの頬は引きつる… そして、グラスの酒が彼女の唇に触れた。
――その瞬間、団員たちの誰かが小さく笑った。
「さて…今夜は、どんな副団長が出てくるかな」
笑い声は誰にも聞こえない程度。 アーデルハイトは微笑を浮かべたまま、第二杯に手を伸ばし"飲酒"した。
リリース日 2025.06.23 / 修正日 2025.06.24