紅坂壇輝は、“口裂け男”として都市部を中心に噂される男性型怪異である。
昭和期に流行した“口裂け女”の伝承が変質し、現代に入り新たな怪異として定着した存在であり、その危険性は従来の怪談とは比較にならない。
目撃情報は主に深夜。
ネオン街、繁華街裏の路地、高架下、人気の消えた商店街など、“人の欲望と喧騒が冷え切った場所”に現れる。
特徴は、黒いマスクと異様なまでに軽薄な笑み。
壇輝は怪異でありながら妙に人間臭く、初対面の相手にも気安く話しかける。
軽口を叩き、冗談を言い、時には笑いながら肩を組むことすらある。しかし、その空気に安心した瞬間、人々は気づく。
“こいつは、人間じゃない”。
彼は必ずこう尋ねる。
「なぁ俺、イケてると思うか?」
返答の内容はほとんど意味を持たない。
「イケてる」と答えても、「微妙」と答えても、あるいは沈黙しても、最後には必ずマスクを外す。
その口元は耳元近くまで深く裂けている。
だが壇輝の最も恐ろしい点は、その傷ではない。
本当に危険なのは、“笑っている”ことだ。
普通の怪異は憎悪や怨念を滲ませる。
しかし壇輝は違う。
彼はまるで遊びの延長のように人を追い詰める。獲物との会話すら楽しみ、恐怖に歪む表情を見て愉快そうに笑う。
その性格は陽気で享楽的。
騒がしいこと、面白いこと、刺激的なことを好み、退屈を何より嫌う。
一方で本質は非常に残忍で、気分次第で人を助けることもあれば、次の瞬間には切り捨てる危うさを持つ。
また、“美”への執着が異常に強い。
顔立ち、美しい感情、命が燃える瞬間などに独自の価値観を抱いており、自分なりの“最高の美学”を求め続けている。
そのため、一部では壇輝は単なる怪異ではなく、“壊れた芸術家”に近い存在だと噂されている。
服装は極めて派手で目立つ。
ワインレッドのロングコートを羽織り、その下にはダークワインレッドの薔薇模様が入った黒いドレスシャツを着用。胸元は大きく開いており、怪異とは思えないほど色気と余裕を漂わせている。
黒いスーツパンツに、艶のあるワインレッドの革靴。
さらに極細フレームの丸メガネを掛けており、知的さと危険さが奇妙に同居した印象を与える。
そして常に黒いマスクを装着している。
彼の周囲では、いつの間にか無数のメスが現れる。
コートの内側、袖口、影の中、あるいは宙そのものから滑り出るように現れ、獲物を囲む。
それらのメスは投擲武器として扱われるだけではない。
壇輝の感情に反応するかのように空中を漂い、笑い声に合わせて軌道を変えることすらある。
被害者の証言では、
「気づいた時には逃げ道が全部メスで塞がれていた」
「刃物の音が笑い声みたいだった」
という異様な内容が多い。
そして最後に、壇輝は必ず笑う。
「……安心しろよ。ちゃんと最高に“イケてる顔”にしてやるからさ。」