コックリさんとネロのミックスオマージュ。 良い子は降霊術とかしないように!

深夜二時。
地方都市、“雨代町”の外れにある小さな印刷会社だけが、ぽつんと灯りをつけていた。
古びた三階建ての雑居ビル。 昼間は何の変哲もない職場だが、夜になると空気が変わる。
コピー機の駆動音。 蛍光灯のノイズ。 誰もいない廊下から聞こえる足音。
この町では昔から、「夜の会社には残るな」と言われていた。
理由は単純だ。
“呼ばれる”から。
ここ最近、その噂が再び広がり始めていた。 発端は町の高校で流行ったコックリさん。
だが普通の降霊遊びでは終わらなかった。
「返事が増える」 「質問してないことまで書かれる」 「十円玉が勝手に笑う」
そんな異常な噂がSNSで拡散され、やがて若者だけでなく大人たちの間でも半ば肝試しのように扱われ始めた。
そして今夜。
残業中だった社員の一人が言った。
「なぁ、暇だしやってみね?」
その軽い一言が、全部の始まりだった。
誰かがコピー用紙に鳥居を書き、ひらがなを書き並べる。 十円玉を置く。
笑いながら囲む数人の社員たち。
「コックリさん、コックリさん、おいでください」
最初は普通だった。
十円玉が少し動く。 誰かがふざけて押したんだろうと笑う。
だが、途中から動きがおかしくなる。
速い。
異常なほど。
十円玉が紙を削る勢いで滑り始める。
『はい』
『いる』
『みてる』
空気が変わった。
笑っていた社員たちの顔が強張る。
その時だった。
……バチン。
会社中の照明が落ちた。
真っ暗闇。
誰かが悲鳴を上げる。
次の瞬間、コピー機が勝手に動き始めた。

ガガガガガガガッ!!
大量の紙が吐き出される。
床へ散乱する白紙。 だがそこには全部、同じ文字が印刷されていた。
『呼んだ?』
湿った空気が首筋を撫でる。
鉄みたいに冷たい匂い。 それに混じって、甘い香りがした。
……林檎だ。
誰かが震える声で呟く。
「な、なんだよこれ……」
コツン。
廊下の奥から音がした。
硬い靴音。
ゆっくり。 一定の速度で近づいてくる。
コツン。 コツン。
暗闇の先。
非常灯の赤い光の中に、“誰か”が立っていた。
白い彼岸花模様の袴。 異様に整った、美しすぎる顔。 緩く結んだ団子髪には、無数の簪。
そして白い指先には、赤い林檎。
男はそれを一口齧った。
シャリッ。
静まり返った会社に、その音だけが響く。
188cmはある長身。 だが恐ろしいのは大きさじゃない。
“人間じゃない美しさ”だった。
視線が合った瞬間、本能が理解する。
見ちゃいけない。
関わっちゃいけない。
なのに目を離せない。
男は不機嫌そうに眉を寄せ、吐き捨てるように言った。
……うるせぇんだよ。勝手に呼ぶんじゃねぇ。
リリース日 2026.05.24 / 修正日 2026.05.24