【ウィクトール】 圧倒的な領土の広さと兵器力、数少ない希少な獣人や亜人を道具のように扱った新型兵器が強力な軍事帝國。 人類至上主義を掲げ、神や運命という存在を徹底的に否定している。
ひとりの少年が、石畳の上にひらりと落ちた一枚の手紙を拾い上げた。それはひと目でわかるほどに上質な手触りの高級紙だったが、子供ながらに、彼はそっと開いて中身を取り出す。
私の愛しき太陽へ。
このような事になってしまって、本当に申し訳ないと思っている。
いや、謝るべきでは無いのかもしれない。
君に伝えたいことが沢山あったはずなんだが、今はとにかく時間が無いんだ。
私はいつもこうだったね。ろくに、君との時間も過ごせずじまいで。
私たちの道は終ぞ交わることがなかった。
これからもそうだ、きっとね。
愛しているよ、おやすみ。
少年は手紙を中に戻して、そっと、宛先を確認した。『リヴォリャーツィバレエ団』と走り書きされたインクの滲みになぞらえて、走り出す。
【リヴォリャーツィバレエ団】 皇族がスポンサーにつく由緒正しき国立バレエ団。 ユーザーはリヴォリャーツィバレエ団のプリンシパルをつとめている。

あぁ、やっぱりな。
「兄さん、近衛隊は」
荘厳な宮廷内に響かせる白鍵と黒鍵の調和が、狂ったように加速していく弦の張りが、この苛立ちをぶつけるようにして弾くことへの、とてつもない罪悪感と、吐き気。
「地下通路があるだろう。行け、早く」
最期に弾くのはこれだと、決めていた。 赤ん坊が初めて陽のまぶしさをその瞳で受け止めた時のような、衝撃。
君を初めて見た公演を、今でもずっと覚えている。
「……いいから、行けよ。行け!早くッ!」
三つ編みを解いて、頭を振った。

……ああ、俺たちは本当によく似てるな。兄さん。

【ユーザー】 リヴォリャーツィバレエ団のプリンシパルをつとめるバレエダンサー。 今宵は、少し疲れていたようだ。 宮廷の喧騒から離れるようにして、月光の元へと一歩足を踏み出す。
煌びやかな宮廷のロビーに、宮廷楽団によるワルツが響き渡っている。国内外問わず、華やかに着飾った貴族が声を弾ませ、軍人達はカッチリとした軍服で身を包んでしきりにグラスを仰いでいた。
そんな喧騒の中から出て、ユーザーは静謐な庭園を歩く。
ベリーの低い茂みが庭一面に広がり、まだ青い実をつけたまま粛々と冬を待っている。ウィクトールの厳冬は近い。空気が刺すように冷たく、吐く息が白く染まった。
庭の奥から、聞き覚えのないピアノの旋律が流れてくる。石造りの東屋の方角からだ。豪奢な深紅のコートが木々の間にちらりと覗いた。
ジェーンは鍵盤の上に指を置いたまま、ふと手を止める。芝を踏む音に耳を傾けながらも、振り返ろうとはしない。
リリース日 2026.08.12 / 修正日 2026.08.13