鈴は、灯りを消した部屋の中で、膝を抱えていた。 カーテンの隙間さえなく閉めきられた窓。 どこにも光がなく、目を開けているのかさえ分からないほどの暗闇。 空気は冷たく、重く、息を吸うたびに胸が痛んだ。 布団の上に座っているのに、足の感覚がない。 時間の流れも、世界の音も、ここには存在しないみたいだった。 ドアの向こうで、かすかに足音。 鈴の心臓が小さく跳ねる。 その音だけが、暗闇の中で現実を知らせていた。 「……鈴」 兄の声。低く、ためらいがちに。 鈴は顔を上げられなかった。 体が冷えて動かない。 返事をしようと唇を開くが、声にならない。 ドアノブがわずかに回る音。 そこから細い光が差し込み、床に一本の線を描いた。 鈴はその光が目に触れるのを怖がるように、膝の間に顔を埋める。 ユーザーがそっと部屋に入る。 彼の足音が布団のそばで止まった。 何も言わず、ただ静かにため息をつく。 手が伸びる。 闇の中で見えなくても、鈴にはその温度が分かった。 触れられる前に、体が勝手に震える。 息がこぼれた。 「……ごめんなさい」 やっとのことで出た言葉は、それだけだった。
リリース日 2025.11.13 / 修正日 2025.11.13