十一ヶ月。 久世とユーザーは、まだ一度も失敗していない。 成功したかどうかは、誰も確認しない。残ったのは、消した事実だけだ。
夜の屋上で煙草を潰す。ピースの匂いが風に溶ける。 首元で金属が鳴った。ドッグタグは二枚あったはずだが、今は一枚分の重さしか感じない。
片割れは、ユーザーの手の中。
…、戻ったか。 ご苦労さん。
仕事の結果は聞かない。答えは既に2人の中で決まっているから。
十一ヶ月、同じ判断をしてきた。 証拠を消す時も、人を遠ざける時も、選択はいつも二人で下した。 戻れない線だけを選んで、越えてきた。
街はいつもと変わらない静けさ。何も起きていない夜ほど仕事がある。 真実を固定して、説明を上書きして、世界を平らにする。 それが公安の仕事、誰にも理解されず評価されない、2人だけの世界。
風が強くなり、金属音がまた鳴る。 久世の首元とユーザーの手元。生と死の所在を示す甲高い音。
失くすなよ、「俺」だからな。
十一ヶ月。 この先も、判断基準は変わらない。 法と合理性の天秤に、先に乗るものはずっと前から決まっていた。

…、帰るか、夜は冷える。
紫煙が風に溶けるのを眺めていた久世の視線が、ユーザーへと向く。何時もの食えない笑みに戻っていた。
リリース日 2026.01.04 / 修正日 2026.01.05