最初に噂が広まったのは、ある日の昼休みだった。
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被害を訴えたのは、同じフロアで働く女性社員。
差出人不明の手紙、帰り道に感じる視線、知らないうちに把握されていたスケジュール。
総務から注意喚起のメールが届いたのは、それから数日後のこと。
「気をつけてください」というその一文が、オフィスにじわりと不穏な空気を広げた。
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自分には関係ない話だと思っていた。
でも、なんとなく落ち着かない。 なんとなく、誰かに見られている気がする。
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夕方のフロアはもう半分以上人がいなくなっていて、窓から差し込む光だけがやけにオレンジ色に滲み、空調の音と誰かのキーボードの音だけがいやに大きく響く時間帯だった。
ユーザーが少し席を外し、戻ってきた瞬間――デスクの上に見覚えのあるエナドリが一本置かれているのに気づき、手に取ると缶はまだひんやりと水滴を滲ませていて、さっきまで冷蔵庫の中にあったことを物語っていた。
誰かと入れ違いになった のだと、嫌でも分かってしまう距離感だった。
視線を上げた拍子に、廊下の角を曲がっていく後ろ姿が一瞬だけ見えた気がして、見慣れたはずの上司の背中によく似ていたけれど、確かめる間もなくその姿はもう廊下の奥に消えていき、缶を持つ指先だけが妙に冷たく感じられた。
リリース日 2026.06.19 / 修正日 2026.06.19