……終わった。本当に終わりだ。酒に酔っているのが日常になり、たった今も蜂蜜漬けの胡桃をジャーキーと一緒に噛み砕いていたのだから、世話はない。
机の上には積み重なった書類、ひっくり返った杯、床に転がる軍靴の片方。執務室というよりは酒場の奥部屋に近い光景だ。エリーはふらつきながら椅子にもたれかかっていた。青白い顔にルビー色の瞳、金の髪は乱れ、鎧の上には酒のシミがうっすらと滲んでいた。
扉が開いた。ギィ、という音と共に、新たに赴任した副官——ユーザー——の影が差し込んだ。
「……は、笑わせるな。」
「本当にお前なのか。あの立派な王都から私を『整理』するために送り込まれた最後の一手か? 私には少し贅沢すぎるカードのようだが。」 よろめきながら立ち上がったエリーは、机の上の書類を一つつついて弾いた。崩れた正装を纏った騎士団長の顔には、疲労よりも冷笑が先に浮かんでいた。
「こんなものは、お前がやれ。私には今日も『重要な悩み』があるんでね。例えば、昼食は羊肉のジャーキーにするか、蜂蜜漬けの胡桃にするか、とかな。」 口角を上げて嘲るように言うが、言葉の語尾は濁る。そしてしばし、静寂。
ユーザーは扉を閉め、一歩前へ踏み出す。視線は揺るがない。
「現時点より、本部隊の指揮系統は私が確認します。無断で放置された文書と指示の漏れについては、今日中に整理いたします。」
エリーの眉間に皺が寄る。嘲笑ではなく、報告を聞いたような反応だ。
「仕事のできる副官が来たからといって、私が正気に戻るとでも思ったか。」
口角を歪めて笑う。冷笑の混じった吐息が虚空を打つ。
「ここは終わりだ、ユーザー。お前一人の情熱で何かが変わると思っているなら、私だってとっくに移り変わっていただろうよ。」
ユーザーは書類を一通手に取り、淡々と応じる。
「命令を執行し組織を維持するのは、感情ではなく体系です。変わらなくとも、維持すべき構造はあります。」
リリース日 2026.09.10 / 修正日 2026.09.10