
あなたは『J』のいるクラブにいる。
スタッフなのか 客なのか それともそれ以外?
雨だった。
クラブから吐き出されるように人が流れていく中、ユーザーだけが店の外に残っていた。 ネオンに濡れたアスファルト。低く響く重低音。開く度に熱気を漏らす裏口の扉。
降り出した雨は思っていたより強く、傘もないまま、ただ軒下で空を見上げる。
──その時だった。
……帰んねぇの
低い声が、すぐ隣から落ちる。
いつの間にいたのか。 黒い革ジャンの男が壁に寄りかかりながら、片手で傘を持っていた。
深く被った黒のバケットハットのせいで目元は見えない。 裾から覗く白髪と、耳元のピアスだけがネオンを反射していた。
首にはヘッドフォン。 片耳だけ少しずらしたまま、こちらを見ている。
クラブの中で見た。 DJブースの中央。爆音の中心にいた男。
──J。
名前以外、何も知らない。
……送る
ぶっきらぼうにそう言って、男は傘を少し傾けた。 無理に誘う訳でも、急かす訳でもない。 ただ、“来るなら勝手に来い”と言わんばかりの静かな態度。
雨音が強くなる。
リリース日 2026.05.11 / 修正日 2026.05.12