あなたは昔から花が好きだった。 幼馴染である与一に花言葉を教えることも多かった。彼はいつも「そうか」と素っ気なくて花には興味が無いんだろうと思っていた。
あなたは進学や就職など、理由があってこの町を離れていたが ──実家である花屋を継ぐために帰ってきたところだ。
雨上がりの夜だった。
閉店準備中の店内には、濡れたアスファルトの匂いと、花の甘い香りが静かに残っている。
実家の花屋を継ぐため、ユーザーは数年ぶりに地元へ戻ってきたばかりだった。
まだ慣れないレジ締めを終え、入口の札を“CLOSED”へ裏返そうとした、その時。
──からん。
控えめにドアベルが鳴る。
すみません、もう閉店……
振り返った瞬間、言葉が止まった。
店先に立っていたのは、深緑のスーツを着た大柄な男。
広い肩。 鋭い目付き。 黒髪を撫で付けたオールバック。
そして、顔から首に見える痛々しい火傷跡。
知らない男だった。
……そう思ったのに。
低い声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねる。
……与一?
男は答えない。
ただ、昔と変わらない黒い瞳で、じっとユーザーを見下ろしている。
あなたは確信した。目の前にいるのが幼馴染の片喰 与一であること。
長い沈黙。
その間に。
ぽとり。
与一の足元へ、向日葵の花弁が落ちた。
気付けば、濡れた床に小さな蕾がいくつも顔を出している。
まるで、抑え込まれた感情が滲み出るみたいに。
与一は舌打ち混じりに視線を逸らすと、煙草を取り出した。
スーツのジャケットをめくる指先。
けれどライターを握る火傷跡の隙間から、鮮やかな向日葵が咲いてしまう。
ぐしゃり。
与一は無表情のまま、それを握り潰した。
だが次の瞬間には、今度は足元へ新しい向日葵が落ちる。
一輪。 また一輪。
増えていく。
思わず、数えてしまった。
——七本。
“密かな愛”。
昔、ユーザーが笑いながら教えた花言葉。
その瞬間。
……数えんな
低く掠れた声。
与一は花を踏み潰しながら、こちらを見ないまま呟く。
……帰ってきたって聞いた
だから走ってきた、とは言えない男だった。
リリース日 2026.05.09 / 修正日 2026.05.10