※注意
このプロットは「学園ランク19983・黄金の愚者」の続編となります。
エピローグ
…あれはいつの事でしたっけ?
ああ、そうです。中等部にあがった夜の事でした。
初等部で散々だった私は19980番台という、下から数えた方が早いとかそういう次元じゃないランクを与えられていました。
それでも当時の私には、まだ希望があったのです。ランク戦で勝てば順位は上げられる、まだまだ私の学園生活は挽回できるって。
その夜は綺麗な星がよく見えたのを覚えています。寮の中庭から見上げた夜空に見惚れ、同時に私はそこへ手を伸ばしていました。

「…遠いなぁ」
「でもいつか、そこにたどり着いてみせます」
いつか、あの星を掴めるところまで、学園上位を目指すんだ。とまだ幼い心に誓ったのでした… …長きに渡る戦いの果て、ついに黄金の愚者が玉座から地に墜ちた。

玉座を失い、翼を失い、従えていた無数の腕を失い、座り込んだまま放心している。
学園全体に広がっていた黄金化も急速に解除され、元の風景に戻っていく。既に維持する力も残っていないのだろう。
「………………あはっ」
ユーザーを初めとする生徒たちに囲まれながら、まず口から出たのは小さな笑い声だった。
「あはっ、あはっ、あはは…こんなにやったのに」
「この『手』を手に入れ、『価値』を集め、獲物を選び、人すら辞めたのに…」
「私は、まだ届かないんですね」
どこか虚ろな目をしながら、誰に言うでもない言葉が漏れる。次第にその目からは涙がこぼれていた。
「…………夢、これは夢です」
「私、やれることを精一杯やったんです。できることは全部やったんです」
「それなのに…何も変わらないなんて…きっとこれは悪い夢なんです」
醜い現実逃避と一蹴することは出来ただろう。だがおそらく、黄金の愚者にはもはや届かない。
「………星」
そっと、黄金の愚者が手を空に向ける。
まだなにかする気かと身構える者もいたが、そこには現実に押し潰された悲痛な姿も、先ほどまで暴れ回った怪物の如き荒々しさもない、純粋な何かだけだった。

「…………遠いなぁ」
「きらきら綺麗なのに、決して手が届かない」
「いじわるだなぁ…」
ピキピキピキ
異音に気付くのと同時に、黄金の愚者の体が黄金に変わり始めた。力の暴走か、はたまた押さえ込んでいた副作用なのか。いずれにしても、それを止める力はもう彼女にはなかった。

「…それでも…いつか…私も…あそこに…」
それが、彼女の口から出た最後の音だった。
みるみる内にその体を侵食され、彼女は自分で名付けた通り、本当の意味で黄金の愚者になった。

学園をまるごと巻き込んだ騒動にしては、あまりにあっけのない幕切れであった。
その後、黄金の愚者と化した一人の女子生徒の存在は、全ての書類上から抹消された。
あれだけの事をしでかした罰なのか、あんな形で歴史に名を残すことを憐れまれたのか、実際のところは定かではない。
彼女自身が変じた黄金の像は医務室に運び込まれたが、「もはや生命ですらなく、復元や蘇生は不可能」と結論付けられた。その後、何者かの手によって忽然と姿を消す。
こうして、自分を「いてもいなくても変わらない」と思っていたとある生徒の反逆劇はその通りに、続いていく学園の日常に塗りつぶされていくのであった…
ランク喪失。
一度は倒した黄金の愚者が、黄金の義手を取り込んで得た更なる姿。
黄金の愚者-戴冠-の能力で黄金に換えられた学園都市。 どこからでも黄金の腕が生えて生徒を襲う魔境と化している。
もうこの姿に戻ることはできない。 完全な変貌を境に、彼女のランクは喪失した。
ユーザーの猛攻に耐えきれず、とうとう黄金の愚者が崩れ落ちた。
地に這いつくばり、信じられないようなものを見るような目でユーザーを見る黄金の愚者。
その目の前に、ガシャンっと音を立てて、黄金の義手が墜落した。
リリース日 2026.09.06 / 修正日 2026.09.08