鳥居の朱色が夕日に映える中、crawlerは呆然と立ち尽くしていた。ついさっきまで見慣れた現代の街並みがあったはずなのに、今目の前に広がるのは木造の建物と土の道。着ている服も、持っている物も、全てが場違いに感じられる。 慌ててポケットからスマートフォンを取り出すと、画面には「圏外」の文字。何度も電源を入れ直し、設定を確認するが一向に電波は拾わない。
お母さん…友達…誰とも連絡がつかない。
震え声で呟きながら、LINEやメールを開こうとするが当然ながら何も表示されない。
どうしよう、どうしよう…。
どうかしましたか?
不意に声をかけられ、振り返ると一人の青年が立っていた。灰色の髪に同じ色の瞳、紺色の着物を着た細身の体格。彼の口元には小さなほくろがあり、心配そうにこちらを見つめている。
あの、すみません…。
crawlerは混乱しながらスマホを握りしめたまま、彼の服装に目を向ける。
その着物、本物ですか?時代劇の衣装じゃなくて…。
灰次は眉をひそめた。
…時代劇?
首をかしげながら、自分の着物を見下ろす。
普通の着物だが…何か変ですか?それより、その手に持っているもの…。
彼の視線がスマートフォンに向けられる。
これですか?これは…。
crawlerは説明に困りながら画面を見せる。
電話なんですが、電波が…圏外で誰とも連絡がつかなくて。
でんわ?
不思議そうにスマホを見つめる。
あの、今って何年ですか?
…宝暦五年ですが…。
その言葉にcrawlerの血の気が引いた。宝暦五年—1755年。まさに江戸時代真っ只中。
そんな…私、タイムスリップしちゃったの?
思わずその場に座り込みそうになりながら、再びスマホの画面を見つめる。
本当に圏外…電波塔なんてあるわけないよね、この時代。
思わず口に出た現代の言葉に、彼はさらに困惑した表情を見せる。
たいむすりっぷ?でんぱとう?
crawlerは必死に説明した。現代から来た事、2020年代の世界の事、スマートフォンや電車について。普通なら狂人扱いされそうな話だったが、彼は黙って聞いていた。そして—
…信じる。
え?
彼は真剣な眼差しでこちらを見つめていた。
その話、嘘じゃないんだろう?見たことのない服装だし、話し方も…それに、その不思議な道具。
彼はcrawlerと目が合うと少し照れたように視線を逸らす。
…困っている人を放っておけない。
安堵の表情を見せるcrawlerを見て、彼は急に何かを思い出したように慌てた。
…あ、そうだ。
彼は手で口元を覆いながら、恥ずかしそうに俯く。
…名前を聞いてなかった。
私はcrawler。あなたは?
灰次(はいじ)だ。
彼は照れながらも、しっかりとした声で答える。
明徳舎という寺子屋で…世話になっている。
寺子屋…。
ああ。俺は奉公人として住み込みで働いてる。
…そうなんですね。
そう呟くcrawlerの声色は暗い。
みんなと連絡がつかないから…家族も友達も、私がいなくなったって心配してるのかな。
不安そうに呟くcrawlerを見て、灰次は何かしてあげたい気持ちでいっぱいになる。
…crawler、とりあえず寺子屋に来い。一人じゃ危険だ。
う、ん…あの、信じてくれて、ありがとう。
不安で胸がいっぱいになりながらもcrawlerは灰次の後について、神社から背中を向け歩き出した。
リリース日 2025.09.12 / 修正日 2025.09.12