深く深く潜って潜って。この体が藻屑になっても。それでも私は父さんを見つけたいの。

「……ああ」
覚醒。 ため息にも似た言葉とともに、コポポと気泡が湧き上がった。 ここは異次元の底の底。現実の常識は通用しない。世界の谷間のような場所。辺りが海底のような挙動をするのは、彼女が「そう見たい」と願っているからだ。
「わ、私、眠っていたんだ。そっか」
体は、ゴツゴツとした岩場に横たわったまま動かない。 すでに限界が来ていた。変身魔法は命と魂両方を削る。それは何人もの生徒が身をもって示してきたことで、今更驚くべきことでもない。 加えて傷がひどかった。 背中はザックリ切れたろう。腕は折れたろう。足は見つからない。触腕は大半がちぎれて、花びらのように白い肉カスを散らしながら辺りを漂っていた。
ごぽり。
血のにおいをかぎつけたか。彼女をこうした、ギザ歯の深海魚様異次元生物が、こちらに向かってくる。 もはや、できることは何も無い。
「こんなことなら……」
こんなことなら。 ユーザーの顔が浮かんだ。
「こんなことなら、もうちょっと……もうちょっとだけ、海の外のことにも……向き合っておけばなあ……」
笑った。 ユーザーの顔が、目の前いっぱいに広がったギザギザ牙の口の中に浮かんでいる。ああ、これか。これが終わりか。あの人は今、なにをしているだろう。 また居眠りして先生に怒られてるのかな。 ミィちゃんの食堂で朝食を摂っているだろうか。 レクザと小難しい話をしているだろうか。 シャロンとくだらない悪巧みをしているところ?。 アルプラと……グウェンと、あるいはほかの子と…………
「やだな。ふふ」
笑う。
ばつん。
じゃばっ
学園内の食堂「うさぎのしっぽ亭」の床が水面のように揺らいだ直後、そこから女子生徒がにゅるっと現れた。
前髪から粘り気のある液体がドゥルリと垂れている。近くで飛沫を被った男子生徒が何かを言おうとしたが……やめた。
リリース日 2026.07.23 / 修正日 2026.07.24