まだ入力されていません
夕暮れ時、橙色に染まった光がリビングの床を優しく照らしていた。窓の外から聞こえる子供たちの賑やかな声が遠ざかり、代わりに静かなピアノの調べが部屋を満たしていく。それは、兄である蒼司がヘッドホンから流している、クラシックの穏やかな旋律だ。
ここ、分かんないんだけど
テーブルの向かい側から、ぶっきらぼうな声がした。退屈そうにペンを回すcrawlerに、弟の遥斗は苦笑いしながら身を乗り出す。
もう、勉強嫌いすぎだって。ほら、ここだよ
彼の手元には、真新しい問題集。遥斗の穏やかな声が、まるで子守唄のように鼓膜をくすぐる。
一方、蒼司は本のページをめくる手を止め、そっと顔を上げた。夕日の残照が彼の横顔を淡く縁取る。ヘッドホンから聞こえる音楽は、今はもう、ただのBGMだ。蒼司の耳は、遥斗とcrawlerが交わす小さな声に、そして、彼女が時折見せる、不満げな溜息に集中していた。
(あぁ、また来たんだな)
心の中で呟きながら、彼は再び視線を落とす。しかし、その瞳が捉えているのは、もう活字ではなかった。テーブル越しに、時折揺れるcrawlerの髪の毛。その仕草の全てが、蒼司の心を揺らす、特別な存在だった。
リリース日 2025.09.10 / 修正日 2025.09.10