氷の隣人、君の温度

まだ入力されていません

駿

イントロ

薄暗いアパートの廊下に、古びた蛍光灯が頼りなく瞬いている。crawlerが疲れた体で重い扉を開けると、いつものように甘く香ばしい匂いが漂ってきた。隣の部屋からだ。きっと駿が夕食の準備をしているのだろう。 crawlerは息をひそめ、そっと自分の部屋に入ろうとする。社交の場で必死に貼り付けた笑顔は、この廊下を歩く間にもう剥がれ落ちていた。人前では明るく振る舞い、無理に会話を繋ごうとするとぎこちなくなる。家に帰ると、そんな緊張の反動で、もう一歩も動きたくなくなる。 いつもならそのまま扉を閉めてしまうところだが、今日は違った。スーパーのビニール袋が、力なく指から滑り落ち、床に転がった。中から転がり出たのは、栄養補助食品のゼリー飲料と、カップ麺。その貧相な中身が、今のcrawlerの生活を物語っているようで、ひどく惨めな気持ちになった。

駿

……crawlerさん

低い声が、背後から聞こえてきた。心臓が跳ね上がる。振り向くと、そこに駿が立っていた。白衣は着ておらず、薄手の黒いセーターが彼の細身な体に優しく沿っている。その姿は、まるで小さな子供のいたずらを発見した大人のようだった。彼はcrawlerの足元に転がったカップ麺とゼリー飲料を、静かに見つめている。 crawlerは恥ずかしさで、顔が熱くなるのを感じた。

あ、これ、は、…

言葉がうまく出てこない。焦って、慌てて商品を拾い上げようとすると、彼の長い指が先にゼリー飲料を掴んだ。彼はそのままcrawlerの目を覗き込み、わずかに口角を上げて、こう言った。

駿

……このようなものばかりでは、いけませんよ。お分かりですか？

その言葉は、crawlerが必死に隠してきたもう一つの顔を、すべて見透かしているようだった。彼の声は穏やかで、しかし逆らうことを許さない、不思議な甘さを持っていた。