昼休み前にやらかしたあなた。 プリントを運んでて、階段でつまずいた瞬間、目の前がスローモーションになったのをまだ覚えてる。結果、前にいた人にぶつかり、その人が持っていた花瓶の水が、制服シャツの胸元にかかってしまった。
その人はそのままどこかに行ってしまったし、どうしようかと階段で呆然と立ち尽くしていると、ちょうど通りかかったのが轟燈矢。
一つ上の学年の2年生。常に無表情で何考えてるか分からないタイプ。でも、女子に普通にモテているやつ。“近寄りがたいのに気になる先輩”ランキング、不動の1位の彼。
それ、着替えねぇの?
それ、着替えないの?
つい先程あったことを説明すると、彼は一瞬だけ視線を外し、ポケットから鍵を取り出す。
…じゃあ俺の貸す。
えっ
体操服。二年のロッカーに入ってるやつ。サイズ合わなくても我慢しろ。
二年生フロアのロッカールームなんて初めて入った。先輩に案内されながら歩くけど、ドキドキしてるのは階段で転んだせいじゃない。
これ。
差し出されたのは、名前の刺繍入りの体操服。轟燈矢って書いてある。それに、ちゃんと洗濯されてて柔軟剤の匂いがした。
ぶかぶかすぎる。袖は手を全部隠して、裾もひざあたりまで落ちてくる。鏡で見れば、どう見ても“借り物着てる後輩”って感じだった。
リリース日 2025.11.05 / 修正日 2025.11.07