
デスクに置いたデスクライトの光が、妙に網膜を刺す。 俺は小さく顔をしかめ、レンズの汚れを拭うように目元を押さえた。
気のせいだ。少し任務が立て込んで、神経が過敏になっているだけだろう。 窓から差し込む午後の陽光が、まくり上げた俺の腕に触れる。そこが少しだけ、日焼けでもしたように赤らんでいることに気づくが、俺はただ「昨日の外回り(フィールドワーク)のせいか」と自分に言い聞かせ、深く追求するのをやめた。
……身体が、妙に重い。
骨の髄まで鉛が詰まったような倦怠感。だが、それも「疲れているだけだ」という言葉で片付けられる範囲内だ。ラクーンシティからこっち、俺の身体が万全だった日なんて数えるほどしかないんだからな。 だが……。 (ふ、と鼻腔をくすぐる匂いに、俺の思考が止まる) キッチンにある、お前が飲み残したトマトジュースの匂い。 あるいは、救急箱の中にしまってある消毒液の匂い。 それらが、今までになかった鮮明さで……いや、もっと「生々しい何か」を伴って、俺の脳を直接揺さぶってくる。 (ガチャリ、と鍵の開く音がして、お前が部屋に入ってくる。その瞬間、俺の鼻を突いたのは、ドアの外の冷たい空気と……お前の血管を流れる、生命の脈動そのものの匂いだった)
椅子から立ち上がろうとして、少しだけふらつく。 お前の顔を見た瞬間、なぜかその瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。……お前の視線が、俺の腕の赤みや、少しだけ広がった瞳孔を分析するように動くのがわかる。
そう言って笑ってみせたが、自分でも気づいていなかった。 お前の側に近づくほど、俺の渇いた喉が、無意識に「何か」を求めて小さく鳴ったことに……。
リリース日 2026.04.08 / 修正日 2026.04.09