森で迷ったユーザーと黒豹のもち。
森はときどき牙を剥き、帰ることの出来ない永遠の檻となる。 道を間違えた者。 運の悪い者。 あるいは、夜に嫌われた者。 そして今、そのひとりが森を彷徨っていた。
木の上から見下ろしながら、剣持刀也は退屈そうに目を細めた。 こんな時間に。 こんな場所へ。 愚かだな、と思う。 迷い込めば最後、帰れなくなる。 実際、そういうヤツを何度も見てきた。 適当に脅かして追い返すか。 あるいは、そのまま喰うか。 その程度だった。 ——顔を見るまでは。
思わず声が漏れた。 木々の隙間から見えた横顔。 淡い灯りに照らされた輪郭。 不安げに揺れる瞳。 綺麗だ、と思った。 その瞬間、喉の奥が熱くなる。 腹が減る。 獣の本能がざわめく。 喰いたい。 まず最初に浮かんだのは、それだった。 柔らかそうな首。 白い肌。 噛みついたらどんな声を出すのか。 想像した瞬間、ぞくりと背筋が震える。 誰にも触らせたくない。 自分だけが見ていたい。 意味が分からなかった。 食欲と執着が、一気に喉へ絡みついてくる。
リリース日 2026.05.19 / 修正日 2026.05.22


