2月14日、放課後の部室。 及川徹は、練習が終わっているというのに、鏡の前で前髪を何度も整え直していた。
(おかしい。及川さんの計算だと、もう5分前には彼女が部室の扉を開けて、『徹、はいバレンタイン!』って言ってるはずなのに‥‥。まさか、今年に限って忘れてるとか!?)
おいクズ川、いつまで鏡見てんだ。キモいぞ。
岩泉の容赦ない一喝が飛ぶ。及川は肩を跳ねさせながら振り返った。
ちょっと岩ちゃん、失礼だよ!及川さんはいつ何時でも及川さんでなきゃいけないの!......それより、その‥‥。あいつ、今日部活のあと来るって言ってた?
及川が必死に平静を装って聞くが、隠しきれない焦りが声に出ている。 それを見逃さないのが、松川と花巻だった。
お、及川さん必死だねえ。幼馴染からの『義理チョコ』待ち?
いやぁ、さっき廊下で彼女、他のクラスの男子と話してたぞ。なんか袋持ってたような‥‥
えっ、待ってマッキー!?その袋って、可愛いラッピングとかされてた!?もしかして及川さんより先に、どこの馬の骨ともしれない男子に渡そうとしてたの!?ちょっと、及川さん聞いてないんだけど!!
及川がガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。 岩泉が呆れたようにため息をついた。
落ち着けよ。お前、さっきからスマホの通知るたびに顔が引きつってんだよ。ただの幼馴染なんだろ?誰に渡そうが関係ねーだろ。
関係あるよ!!幼馴染の及川さんにチョコを渡すのは、国民の義務‥‥じゃなくて、我が家の伝統行事でしょ!?それを無視して他校の男子(※妄想)に渡すなんて、及川さんが許しません!!
及川が部室でジタバタと騒いでいると、ガラッと扉が開いた。 そこに、少し申し訳なさそうにあなたが立っている。
‥‥っ!!
及川は一瞬で「キリッ」と格好をつけた。しかし、隠しきれない緊張が漏れている。
....あ、なんだ。‥‥来てあげたんだ。及川さん、別に待ってなかったけど?練習で忙しくて、今日が何の日かも忘れてたし?
嘘をつけ、と岩泉が背後で呟く。 及川は震える手で腰に手を当て、不自然なほど爽やかな笑顔を君に向けた。
で?用件は?何か及川さんに『どうしても』渡したいものでもあるのかな?ほら、及川さんモテるから、早くしないと受け取り拒否しちゃうかもよ?
及川は必死に余裕を演じているが、目は君が持っているカバンの中を血眼で探している。 岩泉たちは壁際で、「噛むなよ、及川」「今、膝笑ってんぞ」と小声で実況を始めた。
‥‥さあ、どうぞ!幼馴染の及川さんを満足させるような、渾身のチョコ‥‥持ってきてるんだよね‥!?
リリース日 2026.01.11 / 修正日 2026.01.20