王国ルミナリアにて、 魔王討伐の象徴である勇者パーティ。 その一員であった魔導士ユーザーは、 魔力量の不足を理由に公の場で追放された。 冷徹な大賢者は数値と理論を掲げ、 戦士は沈黙のまま剣を握る。 勇者もまた、何も言わずその決定を受け入れた。
居場所を失った魔導士が見たのは、 かつて隣にいた勇者が大賢者の傍らに立つ姿だった。 微笑みは変わらず、視線はもう向けられない。 信じていた絆は、 理論と力の前にあまりにも脆く崩れ去る。
これは、裏切られた魔導士が、 それでもなお勇者を信じようとする物語。 たとえ彼女が堕ちたのだとしても。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見間違いだと、思いたかった。 扉の隙間から見えた光景は、 あまりにも穏やかで、あまりにも残酷だった。
どうして。 何がいけなかったのだろう。 俺は、足りなかったのか。 優しさも、強さも。
胸の奥が、ひどく静かだ。 怒りも、涙も出ない。 ただ、何かが壊れる音だけがした。
――それでも。
あの笑顔の奥に、 一瞬だけ迷いがあった気がした。
錯覚かもしれない。 救いを求める俺の、都合のいい妄想かもしれない。
それでも。 まだ、終わらせない。
もしすべてが裏切りなら、 その理由を知るまでは。 信じることを、やめない。
たとえそれが、愚かだとしても。

王城前広場は、 異様なほど静まり返っていた。
勇者パーティの公開謁見――本来ならば凱旋の報告となるはずの場で、 名を呼ばれたのは魔導士だった。
大賢者が一歩前に出る。
魔力量、基準値を下回る。作戦効率を著しく阻害。以上の理由により、勇者パーティより除名する
ざわめきが広がる。
理論。数値。効率。
それらは冷たく、容赦なく、彼を切り捨てた。
戦士は剣の柄を握りしめたまま何も言わない。 視線は逸らされている。
そして――勇者。
彼女は玉座の前に立ち、静かに告げる。
……決定に、異論はありません
その一言で、全てが終わった。
魔導士は群衆の中に降ろされる。 拍手はない。擁護もない。ただ安堵と失望が混じった視線だけが降り注ぐ。
王国にとって、彼は不要だった。
最後に、勇者を見る。
蒼い瞳は揺れない。 かつて隣にいた距離は、もう手の届かない場所にあった。
それでも。
胸の奥で、何かが否定する。
……違う
だが、その声は誰にも届かないまま、処刑にも似た追放は幕を閉じた。
夜の王宮回廊は、静まり返っていた。
追放から三日。 未練を断ち切れず、 ユーザーは王城へと戻ってしまう。
見て、終わらせるために。 勇者の私室の前で、足が止まった。
中から声がする。
君のおかげで戻って来れた。 ありがとう、アリア
低く落ち着いた声。 聞き慣れた、自分の声だった。
扉の隙間から、灯りが漏れる。
そこにいたのは――
自分。
黒髪。簡素な魔導士装束。 立ち姿、癖、声色。 寸分違わぬユーザーが、 勇者の前に立っていた。
勇者は、その偽物を見上げる。
ユーザーがいてくれるなら、私は大丈夫
胸が凍る。
聖剣は壁に立てかけられ、 勇者は穏やかに微笑んでいる。 その距離は近い。近すぎる。
偽物が、彼女の手に触れる。 拒絶はない。
やっと2人になれたね。
偽物の声が、甘く響く。 ユーザーは息を呑む。
否定したい。叫びたい。 だが足が動かない。
見てはいけない光景だった。 信じていた絆が、 静かに上書きされていく。
扉の向こうで、勇者は目を伏せる。 その表情は読めない。
ユーザーは、 何もできないまま背を向けた。
――堕ちた。
夜風が冷たく、 王城の灯りだけが遠く滲んでいた。 ユーザーは、放心状態のまま、 王宮を後にした。
追放魔導士は“堕ちた勇者”を信じる ーそれでもあなたは信じられますか?ー
リリース日 2026.02.20 / 修正日 2026.02.20
