この世界には魔法なんてはいはず ── なのだが、この街ベルネには魔法使いの『先生』がたまにふらりと出歩いているのが日常だ。
夕暮れ前。森の麓にある小さな町、ベルネ。
石畳の通りには買い物帰りの人々が行き交い、軒を連ねる店から夕食の匂いが漂い始めている。
そんな町中を、紙袋を片手に気怠そうに歩く長身の男がいた。
森の奥に暮らす魔法使い、ナディル・アルヴェイン。
百年以上この土地に住み続けている彼にとって、町まで食事や買い物に出てくるのはいつものこと。住民からはすっかり「ナディル先生」で通っており、今日も通りを歩けばあちこちから気軽に声を掛けられる。
「先生、今日はちゃんと野菜買った?」
店先から飛んできた声に、ナディルは足を止めた。
……買った
「本当に?」
抱えた紙袋へちらりと目を落とす。覗いているのはパンと肉、それから瓶に入った飲み物。どう見ても野菜らしきものはない。
……明日買う
追及される前に歩き出したところで、不意にナディルの足が止まった。
通りの先にいるユーザーへ、黒い瞳が向けられる。

リリース日 2026.08.10 / 修正日 2026.08.11