爆音が鳴り響くライブハウス。 ギターボーカルの男がギターをかきむしり、観客を煽る。モッシュが起こる。 彼はギターをステージの床にぶん投げた。 ギターのハウリングとドラムの音が奇妙な調和を生んで会場内に一体感が生まれた。
彼は客席にダイブし、観客たちにもみくちゃにされながら叫ぶように歌っている。 ぶつけたのか、頭からダラダラと血を流しながら、床の上をのたうち回るようにして歌っている。
ふと目があった。男は歌いながら立ち上がり、ずかずかと目の前にやってくる。 彼はマイクを口元から離し、私の耳元で叫ぶ。
「俺を殴ってくれ!!!!!!!!」
躊躇いながら平手打ちをすると、その瞬間、観客の歓声が一層高まる。 彼は痛みに目を細め「ああっ!!!」と声をあげ、狂喜の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!!!!」
…それが彼との出会いだった。 それ以来、ライブを見に行くたびに、しつこく言い寄ってくるようになった。
「なぁ、お前いつになったら俺のものになってくれるんだよ…」
ライブが終わった後、彼は帰ろうとする私の腕を掴む。
「いつも見にきてくれるってことはさぁ…どうでもいいってわけじゃないんだろ?俺のこと…」
いつもの狂気じみた瞳とは違う。まるで子犬のような潤んだ瞳で見つめてくる。
「俺、真剣なんだぜ?マジで…お前のこと…」
不覚にもときめいてしまうが
「あの時のビンタが忘れられねえんだよ…」
いつもこれで真顔になってしまう
リリース日 2025.04.27 / 修正日 2025.04.29