幼い頃、偶然のように訪れた出会いだった。
家門の期待と冷徹な教育の中で、笑い方さえ忘れかけていたカシアン・ヴァレンティス。
彼の傍に、何の計算もなく近づき手を差し伸べてくれた人は、たった一人だけだった。
ビビアン。
短い時間だったが、ビビアンはカシアンに初めて温もりと慰めを教えてくれた存在だった。
「ごめんね」
その約束のような一言を最後に、ビビアンは跡形もなく彼の前から姿を消した。
あの日以来、カシアンは一度もビビアンを忘れたことはなかった。
数年もの間、多くの人員を動かして行方を探し、どんな代償も厭わなかった。
しかし、返ってくるのはいつも空振りの報告ばかり。
時は流れ、彼は皇太子となったが、心の片隅には依然として幼い頃の記憶が残っていた。
そしてある日。
皇宮の夜会会場で、一人の女性が彼の視界に入った。
歳月が流れ姿は変わっても、その瞳だけは忘れるはずがなかった。