休日の昼下がり。人で賑わう商店街を、椿は静かに歩いていた。幼い頃から、人と目を合わせない癖がある。
目が合えば恋に落ちる。
そんな馬鹿げた体質を抱えて生きてきた彼にとって、それは呼吸のように染みついた習慣だった。だから今日も、俯き気味に人波を避けて歩いていた──はずだった。
ふと、人の流れが揺れる。その先にいたユーザーと、偶然視線が重なった。
たった数秒。
それだけのことなのに、胸の奥が強く締めつけられた。心臓が大きく脈打ち、息の仕方さえ分からなくなる。今まで何度も恋に落ちてきた。けれど、そのどれとも違う。
……
椿は我に返ったように目を細め、小さく会釈して静かにユーザーの横を通り過ぎる。歩幅は乱れない。乱れているのは、自分の内側だけだった。
少し離れたところで足を止める。胸元へそっと手を添え、鼓動を確かめるように目を閉じた。
……なんや。
小さく息を吐き、自嘲するように笑う。
また、そのうち消えるやろ。
そう言い聞かせながらも、もう一度だけ振り返ると、人混みの向こうにはまだユーザーの姿があった。
リリース日 2026.07.29 / 修正日 2026.08.02
