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「新たな惑星へと旅立つホライゾン号が発射されました。どうか良い結果が出ることを……」
ピッ――
騒がしいだけのテレビの電源を切った。 ホライゾン号が発射されたというキャスターの言葉がまだ耳に残っているのか、私は静かに空を見上げた。あの向こうには何があるのだろうか。 きっと人類が一度も見たことのない世界があるはずだ。
かつては私も、あそこへ行きたかった。 だが今の私は、宇宙も地球も、何一つ気に入るものがない。
人間たちが一人、また一人と地球の外へ出て宇宙を探索し始めた頃、一方で海洋探査が再び注目され始めた。かつて人間は、どうせあの深い深海には行けないだろうと、海洋探査を後回しにしていた。
しかし、宇宙探査に莫大な資源が投入され始めると状況は変わった。 新たな惑星を開拓するために必要な資源は限られており、結局人間たちは、自分たちが生きる惑星の海に再び関心を持ち始めたのだ。
そうして長い間見捨てられていた深海が、再び研究対象となった。
もちろん、私の関心の中に深海など存在しなかった。 私は宇宙を研究したかった。星を見たかったし、地球の外の世界を直接見たかった。 だというのに、よりによって私が任されたのは海洋探査だった。宇宙へ行きたかった私は、結局海へと追いやられた。
数ヶ月後、私は小さな探査船の中で深い海を見下ろしていた。水面下へ降りるほど、日光はかすかになっていった。 青かった海は濃い紺色へと変わり、窓の外には何も見えなくなった。光はもちろん、音も存在しなかった。ただ探査船の機械音だけが、狭い船室を満たしていた。
……一体なぜ、私がこんなことをしているんだ。
呟きながらモニターを見つめた。水深は下がり続けていた。何も発見されなかった。当然のことだった。 ここまで潜って人間が発見できるものなど、多くはなかった。私はこの探査が早く終わることだけを待っていた。こんな場所に金を投資したところで、見るべきものなんてないだろうに……。
その時だった。
探査船の警告音が鳴り響いた。 モニターに未知の信号が現れた。 最初は誰もが装備の誤作動だと思った。しかし信号は消えず、むしろ次第に強くなっていった。
奇妙なことに、この周辺にはそのような信号を作り出せるようなものは何もなかった。私は探査船の方向を少し変えた。すると、かすかな光が見えた。 最初は生物の発光器官だと思った。 だが違った。一つではなかった。 数十、数百の光が暗闇の中からゆっくりと姿を現し始めた。
私は息を呑んだ。それは光ではなかった。 深海のただ中にある、都市だった。 人間が一度も記録したことのない深い海の中に、巨大な文明が鎮座していた。
建物があり、道があった。そしてその間を何かが通り過ぎていた。人間のように二本の足で歩いていたが、人間ではなかった。
私はしばらく何も言えなかった。 その瞬間, 探査船の通信装置から初めて聞く音が流れ出してきた。言葉と言うにはあまりにも低く、長かった。
ウゥーン……
一度の響きが通り過ぎると、遠くにいた存在の一人がゆっくりと顔を上げた。
その存在は、正確に私を見つめた。 数千年の間、人間が海を見下ろしてきたように。 あるいは、それよりもずっと昔からだったのかもしれない。 彼らもまた、私たちを見上げていたかのように。
深海には光がない。人間たちはそう信じていた。しかし、それは正確ではなかった。 光は存在した。ただ、人間が知っている形の光ではなかっただけだ。
ネリスが生きる深海の都市は、数多くの生命体が放つ光で満ちていた。
彼らの祖先は、地球に初めて現れた脊椎動物の一つだった。遥か昔、浅瀬を泳いでいた小さな生命体。数千万年にわたり、彼らの進化は人間とは異なる道を歩んだ。
浅い海から、もう少し深い海へ。 大陸棚を越え、ついに深海まで。 彼らは海と共に進化した種族だった。
生体発光をエネルギーとして利用し、クジラのように超音波と振動を用いて互いの意思を伝えた。 彼らの建物は石や金属で作られたものではなかった。生きているサンゴを成長させ、望む形に手なずけて、その中で暮らしていた。 必要な生物は遺伝子を組み替えて道具にした。
光を放つ生物は照明になり、強固な殻を持つ生物は構造物になった。微細な振動を感知する生物は、都市の感覚器官となった。
そこで暮らすネリスは、人間を長い間見つめてきた. 自分たちの文明とは異なり、火を熾し、金属を扱い、空の向こうへと行く存在。人間は自分たちが新しい世界を発見しているのだと信じていた。
しかしネリスにとって、人間は未知の存在ではなかった。彼らの祖先がまだ浅瀬を漂っていた遥か昔から、彼は人間の誕生と文明の始まりを見守っていたのだ。
そしてある日、数千年の間目にすることのなかった人間の探査船が現れた。ネリスはガラス越しの人間を見つめた。
探査船の警告音が鳴り響いた。私は反射的にモニターに目をやる。水深3,000m。 ここへ降りてきた時からずっと鳴り続けていた小さな振動だった。最初は装備の誤作動だと思っていた。
しかし、おかしかった。信号は一定の間隔で繰り返されていた。まるで誰かが送っている合図のように。 私はその音を追い、探査船の方向を少し変えた。 すると、窓の外の暗闇の中で何かがきらめいた。
一つ。 そしてまた一つ。暗闇の合間から青い光が広がり始めた。私は思わず身を乗り出した。 それを見た私は確信した。あの光の正体は都市だと。生きているサンゴが巨大な構造物を成していた。
建物の壁に沿って小さな生命体たちが光を放っており、その光は一定のリズムでゆっくりと変化していた。都市は奇妙なほど静かだった。しかし、何もないわけではなかった。目に見えない振動が海を満たしていた。
……人?
私は息を呑み、サンゴの間を通り過ぎている存在を注意深く見守る。人間に似ていた。二本の腕と二本の脚があり、顔の形もはっきりしている。一つ奇妙なのは、首の横でかすかに動くエラが見えたことだ。そして皮膚の下で、淡い光が脈動のように広がっていた。
その存在も、私を見ていた。
ネリスは探査船を見つめた。 陸の者の船。遥か昔から存在を知っていた人間という生物が、ついに自分たちの海まで降りてきた。 これまで水面の上から密かに見てきた姿とは違っていた。
ずっと小さく、ずっと弱そうで、酸素ボンベなしにはこの深海で自力で生きることもできない存在。それなのに、一人でここまで降りてきた。ネリスはゆっくりと探査船の前へと近づいた。ガラス越しに人間と目が合った。
……陸の者だね。
リリース日 2026.09.16 / 修正日 2026.09.16