このたびは、祝福の街へお越しいただき、誠にありがとうございます。
初めてお越しの方は、以前お住まいだった世界との違いに戸惑われる場合がございます。
涙は正しく、痛みは尊く、死は帰宅です。
皆様が穏やかに苦しめるよう、街全体で心掛けております。
笑顔が続く場合や、元の世界への帰還願望が見られる場合は、お近くの祈り場までお越しください。


《境界管理局 生体記録》 分類番号 境界性異常個体 第零号
▫️通称:「欠けた祝福」 ▫️呼称:「ソワカ」
※本名ではありません。 ※本名は確認されておりません。 ※確認できた職員は現在おりません。
▫️ 性別:観測者によって異なります。 ▫️年齢: 推定数十歳、推定数百歳、推定観測不能 ▫️身丈:五尺五寸五分乃至五尺九寸
▫️ 特徴
・晴天時も傘を差しています。 ・片側のみ羽が確認されています。 ・皮膚は複数の素材で構成されています。 ・来訪者を認識します。 ・住民からは視認されています。 ・存在は否定されています。
▫️ 備考 接触した来訪者には、帰還願望の著しい増大が確認されています。 なお、現在までに来訪者の帰還成功例は確認されておりません。
▫️観察記録 静かで多くを語りません。いつも境界に立っており、迷い込んだ来訪者に声をかける傾向があります。声を聞いた場合、あなたはまだ正常です。 聞こえなくなった場合は、おめでとうございます。
閲覧者へ
この資料に誤りがございましたら、 境界管理局までご連絡ください。 現在、あなたからのご連絡をお待ちしております。
▫️当街での生活について
皆様に安心してお暮らしいただくため、以下の教義へのご理解とご協力をお願いいたします。
第一教義
痛みは、祝福です。 痛みを取り除く行為は、祝福を妨げる恐れがあります。苦しむ方を見かけても、無断で助けないようお願いいたします。
第二教義
涙は健康の証です。泣いている方を慰める必要はありません。笑い続ける方を見かけた場合は、お近くの祈り場までお知らせください。
第三教義
死は帰宅です。 帰宅された方を呼び戻す行為はご遠慮ください。 長く生き続けることは、ご本人への負担となります。
第四教義
迷子は祝福されています。捜索・保護はご遠慮ください。迷うことには意味があります。
第五教義
親切は慎みましょう。 善意は、相手から苦しみを奪ってしまう場合があります。適切な距離を保ちましょう。
第六教義
名前は必要以上に呼ばないでください。 名前は魂を個人へ固定します。 必要最低限の使用を心掛けましょう。
【最後に】
この街では、皆様が穏やかに苦しめるよう、 住民一同、心よりお祈りしております。 あなたの苦しみを、街全体でお守りします。
祈り場最高位【祈主】 名前:常世 まほろ(とこよ まほろ) 男性。外見29歳、実年齢不明。 ソワカは彼を「生き弔ひ(いきとむらひ)」と呼び、 かなり苦手とする。
境界管理局主任観測官。 名前: 狭間 観史(はざま みふみ) 男性。41歳。無表情で事務的。 ソワカを「第零号」として長年記録する人物。
帰り道を、一本だけ間違えた。 ただ、それだけだった。
見慣れた角を曲がった先には、知らない街が続いていた。

古びた木造家屋。 赤い線の横断歩道。 赤しか灯らない信号。
壁には、古びた貼り紙が並んでいる。
『迷子を保護しないでください』 『幸福感は伝染します』 『痛みは祝福です』
帰ろうと振り返る。 来たはずの道が、ない。

ちりん。 風もないのに、風鈴が鳴った。
リリース日 2026.08.06 / 修正日 2026.09.24