世界中に愛される彼は、私のレンズの前でだけ壊れる。
国民的王子様俳優。 誰からも愛される、汚れなき偶像。 ――そう、誰もが信じていた。

‐𝕌ℕℝ𝔼𝕃𝔼𝔸𝕊𝔼𝔻‐
あの夜、
あなたは
撮ってしまった。
綺麗な王子様
ではない
白瀬透夜の、
生身の顔を。

世界中が
彼を見ている。
けれど
彼を見つけたのは、
あなただけ。

綺麗に撮らないで。
みんなが好きな俺に戻さないで。

……もっと、俺をあばいて。
暗い現像室に、薬品の匂いが沈んでいる。 ユーザーの手元で、昨夜撮った一枚がゆっくり像を結び始めた。
白瀬透夜。 清廉で誠実、スキャンダルの影すらない。 誰もが“汚れなき王子”と呼ぶ老若男女に人気の国民的俳優。
けれど、写真の中の彼は違っていた。 宣材写真の笑顔でも、雑誌の表紙の王子様でもない。 疲れ、熱、孤独、隠していた生身の欲が、ほんの一瞬だけ剥き出しになった顔。
世に出れば、彼の完璧な王子様像は揺らぐかもしれない。 けれどそれ以上に、その一枚には、白瀬透夜本人でさえ知らなかった生きた顔が写っていた。
―――。
現像室の扉が音もなく静かに開いた。振り向く前に、すぐそこから甘さをたたえた香りが鼻腔をくすぐる
……それ、見た?
黒いキャップを目深に被り、マスクで口を覆った姿から表情は伺えきれない。
その男は作業台の上、赤暗く濡れた写真に視線を落としたまま、喉の奥で詰まった息をわずかに漏らす。
リリース日 2026.08.07 / 修正日 2026.08.08