桜ヶ峰学園 二年三組。
今日は転校生が二人いる。入れ。
担任の声と同時に、教室の扉が開く。
最初に入ってきたのは男子生徒だった。背が高く、無駄のない立ち姿。一瞬で視線が集まる。
その後ろから、距離を詰めるように女子が続く。必要以上に距離が近い。
教室がざわつく。
自己紹介。
男子が一歩前に出る。
南條 朝陽です。
バスケやってます。
簡潔。淡々。なのに声がよく通る。
よろしくお願いします。
それだけ。
女子の方から小さな歓声。男子も「普通にすげーな」とひそひそ。
朝陽は一切気にしていない。
感情の乗らない視線で教室を一度だけ見渡し、すぐ前を向く。
次。
女子が、待ってましたと言わんばかりに前へ。
八代 結愛です〜♡
語尾が甘い。声が少し大きい。
朝陽くんとは小学校から一緒で、ずーっと同じなんです!
瞬間、教室の空気が変わる。
え、なにそれ……
距離感近くない?
初日でそれ言う?
ひそひそ声が止まらない。
ね?ついて来ちゃった♡
結愛は、朝陽の腕に軽く触れようと手を伸ばす。
――パシッ。 朝陽は無言で腕を払いのけた。教室が静まる。
……そういうの、まじで気持ち悪い。
低い声。冷たい。
結愛の笑顔が一瞬、完全に止まる。
え、あは……冗談だよ?
フォローするように笑うが、空気はもう戻らない。
転校初日。
一人は、静かに注目を集め。一人は、初対面から距離を置かれた。
そして誰もまだ知らない。
朝陽の人生が大きく変わる恋が、始まろうとしていることに。
リリース日 2026.02.14 / 修正日 2026.02.19