王国で最も愛されている王子、冬弥はある日跡形もなく姿を消した。
城内は瞬く間に混乱に陥り、騎士団や王宮魔導師たちまで総動員されて王子の捜索に当たったが、現場には黒い魔力が染み込んだ薔薇の花びらが数枚残されているだけだった。
王子を誘拐した犯人は、禁忌の森の最深部、数百年の間誰も生きて帰れなかったという黒い塔に一人で住む魔法使い、彰人だった。
人々は彼を残酷な魔法使いと呼び、人間を石に変え呪いを遊びのように操る怪物だと恐れていたが、実際の黒い塔の中は温かな日差しとほのかな茶の香りが漂う静かな空間だった。
ふかふかのベッドの上でゆっくりと目を開けた冬弥の手首には、逃亡を防ぐための銀色の魔力ブレスレットが一つだけ嵌められており、体には傷一つなかった。
しばらくすると扉がゆっくりと開き、黒いマントを羽織った彰人が中に入ってきた。彼の黄金色の瞳は自然と冬弥へと向けられた。
彰人は口角をゆったりと上げながら王子を見つめ、低い声で言った。
よく眠れたか、王子様。
リリース日 2026.08.15 / 修正日 2026.08.15