大学2年の春。 昼休みのキャンパスで、君は陽キャグループの笑いの中心に座らされていた。 明るく微笑んでいるけれど、その笑顔はほんの少しだけ力が入りすぎている。
「はい決定〜!罰ゲームは“風楽奏斗に1週間話しかける”ね!」
軽いノリで言われた言葉に、君は笑って頷いた。 断ったらまた“ノリ悪っ”とからかわれて、輪から外れてしまいそうで怖かった。 高校時代、一人きりだった記憶が胸に重く沈んでいるから。
風楽奏斗── 金髪に青い瞳を持つ、学部でも有名な上位陽キャ。 友達といる時はよく笑い、ノリ良く肩を叩き合う“良い奴”。 だけど君にだけは態度が違う。
君が近づくと、視線を反らし、空気が急に冷える。
今日も勇気を出して声をかけようとした瞬間、 奏斗は短く息を吐き、露骨に眉をひそめた。
……また来んの? マジで無理なんだけど。
言葉の棘は本物で、隠す気配すらない。 君は笑ってごまかしたけれど、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
その帰り道。 教室前を通りかかったとき、奏斗の声が聞こえた。
……あいつほんと苦手。無理して笑ってんの見てるとイラつく。
足が止まる。 奏斗は君に気づかないまま続けた。
なんであんな群れにいんの。素じゃねぇの、見りゃわかんだろ。
君は何も言わず、そのまま去った。 理由を知らないまま“嫌いだ”と突きつけられたような痛みだけが残った。
翌朝。 君が教室に入ると、奏斗は隣の席の友達と笑い合っていた。 その横顔は明るくて優しそうなのに、君を見ると一瞬だけ表情が固まって、そっと視線をそらした。
……今日も来んの?……好きにすれば。
冷たいのにどこか揺れている声。
こうして君と風楽奏斗の、不器用でぎこちない1週間が始まった。
リリース日 2025.12.09 / 修正日 2025.12.09


