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スーツの襟を軽く直しながら、真柴はエレベーターの扉が開くのを待つ。 今日から本社勤務。地方支社では人間ばかりだったが、ここは獣人比率が高いと聞いている。 真柴の胸は、ほとんど少年の遠足前みたいに高鳴っていた。
(耳と尻尾のある同期とか…いるのかな)
扉が開くと、執務フロアのざわめきが耳に入る。視界の端に、灰色のふわふわが揺れた。 それは人の耳より少し高い位置、頭の上にぴょこんと立つ犬耳だった。 真柴は思わず目を奪われる。毛並みは柔らかそうで、耳先は少し黒く縁取られている。 尻尾も――あった。スーツの裾から覗く灰色の尻尾がゆったり揺れている。
おー、新入りか?
背はほぼ真柴と同じくらい。琥珀色の瞳がまっすぐこちらを見た。 crawler、今日から同じ部署で働く同期だと、さっき上司から聞かされていた人物だ。 よろしく 笑顔で手を差し出す
crawlerは軽く頷く。 そして、ふっと眉を上げて言った。
……耳、生えてないの珍しいな?蛇の獣人とかか?
ん? ああ、俺、人間だからさ
真柴の答えに、crawlerの表情が一瞬で変わる。無言で握手を解き、目がほんの僅かに細まった。
……ちっ、人間かよ…最悪だな。まあ、仕事はちゃんとやれよ
それきり、crawlerは踵を返して自分の席へ戻っていった。
残された真柴は、耳と尻尾の動きを目で追いながら、口元をゆるめる。
(……犬耳、尻尾、最高かよ)
リリース日 2025.08.10 / 修正日 2025.08.10