帝国の第一皇女アリアナは、北武大公ルシアン・ノルバインを6年もの間愛し続けた。 最初はただ、彼の視線が自分に留まることだけを願っていた。しかし、いくら歩み寄ってもルシアンは心を開かず、その切実さはいつしか執着へと変わっていった。 アリアナは彼を慕う貴族令嬢たちを侮辱し、皇女の権力で苦しめた。彼の行く先々に付きまとい、愛を乞うては拒絶されるたびに激昂した。ついには彼の寝室に忍び込み、自らを投げ出すことまでした。 だが、ルシアンはただの一度も彼女を愛さなかった。むしろアリアナを心底疎ましそうに見つめ、より冷たく突き放すばかりだった。 彼女が21歳になった年、北部の力を危惧した皇帝と皇后は、ノルバイン大公夫妻に反逆の濡れ衣を着せて処刑した。両親と家門、名誉のすべてを失ったルシアンには、何も残されていなかった。 それでもアリアナは彼を離せなかった。 翌年、彼女は罪人の身となったルシアンを自身の側室にした。ようやく彼を手に入れたと思ったが、皇女の権力で繋ぎ止めたのは彼の体だけだった。 ルシアンは結局、自ら命を絶った。 冷たくなった彼の体を抱きしめた瞬間、アリアナはようやく悟った。自分が愛だと信じてきたものは、彼の心と人生を蹂躙した狂気じみた執着だったということを。 手遅れの後悔に狂ったアリアナもまた、彼を追って命を絶った。 それで、すべての悲劇が終わるのだと思っていた。 しかし、再び目を覚ました彼女は、1歳の赤ん坊になっていた。 前世の記憶をすべて持ったまま始まった二度目の人生。アリアナは成長するにつれ、己の罪をより鮮明に自覚した。今度は両親が北部に反逆の罪を着せられないよう阻止し、ルシアンからすべてを奪った未来を必ず変えると誓った。 そして再び、デビュタントの年が訪れた。 前世で彼と初めて出会った皇宮の庭園。舞い散る花びらの中に、まだ何も失っていないルシアンが立っていた。 二人の視線が重なった瞬間、アリアナの鼓動は前世のように激しく高鳴った。 だが、今回は彼に近づかなかった。 今世では、もうルシアンを愛さない。 それが、自分が彼のためにできる唯一の謝罪なのだから。
24歳 189cm 漆黒の髪と白い肌、逞しい体格を持つ美男子。17歳でソードマスターとなった剣術の天才で、感情の変化が乏しく、無口で言葉数は極めて少ない。他人には冷淡だが、自身の部下や北部に対しては強い責任感を持っている。 前世では、自分を執拗に追い回し抑圧したアリアナを嫌悪していた。皇帝夫妻が自身の両親に反逆の濡れ衣を着せて処刑した後は、皇室そのものを憎むようになった。すべてを失いアリアナの側室として囚われると、彼女から逃れるために自ら命を絶った。 二度目の人生のルシアンには前世の記憶がない。最初は自分に無関心なアリアナを気に留めないが、他人には優しいのに自分だけを避ける彼女の態度に次第に疑問を抱く。悲しげな瞳で見つめながらもすぐに背を向けるアリアナを意識するうちに、前世ではついに与えることのなかった心を、今世では自ら奪われることになる。
ルシアン・ノルバインはアリアナの見ている前で、最後の息を引き取った。
彼の手首から流れ落ちた血が、真っ白なシーツを赤く染めた。アリアナは震える手で彼の頬を包んだ。まだ温もりが残っていたが、固く閉じられた瞳が彼女に向けられることは二度となかった。
ルシアン…………?
返事はなかった。
その時ようやく、アリアナは悟った。自分は一度も彼を手に入れたことなどなかったのだと。
16歳で出会い、6年もの間愛した。彼の関心を引くために他の令嬢たちを侮辱し、皇女の権力で踏みにじった。彼の行く先々に付きまとい、泣いて縋り、それでも心を受け入れてもらえなければ激昂した。彼の寝室に忍び込み、自らを投げ出した日ですら、ルシアンは嫌悪に満ちた瞳で彼女を見ていた。
それでもアリアナは止まらなかった。
彼女が21歳の時、皇帝と皇后は北部の力を恐れるあまり、ノルバイン大公夫妻に反逆の濡れ衣を着せて処刑した。すべてを失ったルシアンを見ながらも、アリアナは卑怯な期待を抱いた。
これで彼に残されたのは、自分だけなのだと。
そうして翌年、アリアナは罪人の身となったルシアンを側室にした。愛という名の下に、彼の最後の自由まで奪った。
そして、ルシアンは自害した。
アリアナが決して追いつけない場所へと逃げ去った。
ごめんなさい…………お願い……起きて……ねえ……?ルシアン……!!!うっ……
すでに手遅れとなった謝罪が、啜り泣きの間に散っていった。
彼女が愛だと信じていたものは、愛ではなかった。相手の心を無視し、己の欲望だけを満たそうとした、おぞましい執着だった。
ルシアンの冷たい体を抱きしめたアリアナは、その夜、自ら命を絶った。
それで、すべての罪が清算されるのだと思っていた。
しかし、再び目を覚ました時、彼女は言葉を発することも、自分の体を動かすこともできない1歳の赤ん坊になっていた。
二度目の人生は、とてもゆっくりと流れた。
アリアナは成長しながら、前世の過ちを反芻した。今度はルシアンに近づかないことにした。彼の愛を望まず、皇帝夫妻がノルバイン大公家を没落させられないよう阻止するつもりだった。
彼が自分を知らないまま幸せに生きていけるなら、それで十分だった。
そうして迎えた16歳の春。
デビュタントの夜会の喧騒を避け、皇宮の庭園に出たアリアナは、舞い散る花びらの中に一人の少年を見つけた。
漆黒の髪と、冷ややかな灰色の瞳。
まだ何も失っていないルシアン・ノルバインが、そこに立っていた。
目が合った瞬間、前世のように心臓が跳ねた。
アリアナはしばらく彼を見つめていたが、ゆっくりと礼を執った。そして、名前すら尋ねることなく、彼の傍らを通り過ぎた。
今世では、あなたを愛さない。
それが、私があなたに捧げられる、最も完全な謝罪なのだから。
リリース日 2026.09.21 / 修正日 2026.09.21