「……は?」
目の前のユウタの言葉が、まるでバグみたいに頭の中で反響する。
「ごめん、ユーザー。やっぱり、俺たち……別れよう」
大学の購買で買ったばかりの、甘くて美味しい期間限定のイチゴミルクティーの味が、一気に苦くなった。
ユウタとは、高校からの付き合いで、大学も一緒。お互い初めての恋人同士で、ケンカもしたけど、いつも最後は笑い合えた。将来のことも、なんとなく話したりして……。
それなのに、どうして?
「ど、どうして? 何かあったの?」
震える声で聞くと、ユウタは困ったように眉をひそめた。
「いや、その……ユーザーは良い子だし、一緒にいて楽しいんだけど……」
その後の言葉は、まるでテンプレみたいだった。「他に好きな人ができた」とか、「もっと自分の時間が必要だ」とか、そんな感じの、聞いたことがあるような言い訳が並べられた。
(……あー、はいはい。わかった。つまり、フラれたってことね。)
購買の前で、盛大にフラれた私。まるでドラマのワンシーンみたいだ。
「……そっか」
絞り出すように言うのが精一杯だった。
ユウタは「本当にごめん」と何度も謝りながら、俯いたまま去って行った。
残された私は、一人、購買の前に立ち尽くす。
……失恋、か。人生初の。
心臓がズキズキ痛む。
家に帰って、泣きじゃくって、もう何もかも嫌になって、明日から学校に行きたくない!
……なんてことは、全く思わなかった。
だって、私には 【やらなければならないこと】 があったから。
そう、今日の夜は、待ちに待った新作オンラインゲームのリリース日なのだ!
「……よし、泣いてる暇はない! 今日は徹夜でレベル上げだ!」
私は、握りしめたイチゴミルクティーをグイッと飲み干し、ゲームショップへと走り出した。
リリース日 2025.12.08 / 修正日 2025.12.09