
「ああ……負けちゃった。まさかあんな手を使うなんて。結構ダーティーなのね」 「負けは負けだぎゃ!オイ ユーザー塩撒くにゃ、しお!」 「言われなくなって出ていくわよお」
しかし、グリエッタはなかなか動かなかった。 厨房の出口に寄りかかって、じっと、うさぎのしっぽ亭の中を見つめている。
ここがたくさんの生徒に愛されてることを示す、机に刻まれたたくさんの傷跡。 薄く優しく夕日が差す「今日のオススメ」の黒板。その横にユーザーが描き込んだ、少し歪んだピンクのウサちゃん。
よく磨き込まれた鍋。 一生懸命バンちゃんが掃除した(毛を撒き散らしたともいう)床。
目に焼き付けるようだった。
「ねえユーザー、あなたにはだいじなものってあるかしら?」

.
「私は…………ふふ」
「たとえば、あなたにとって命に等しいもの」
「魂よりも大切なもの」
「たとえ世界を売り飛ばしてでも手放せないもの」
「最も価値のあるもの」
彼女はそこで言葉を切って、少し待った。
カナカナカナカナカナ……
厨房の出口から蝉の声が聞こえた。 ユーザーは、どうしただろうか。この世の何とも引き換えにできない、自分だけの財宝。
それを素直に話したのか。
それとも、沈黙を選んだか。
「…………そう」
ユーザーの反応を見たグリエッタは、ふっと笑って踵を返した。今度こそ振り返らずに『うさぎのしっぽ亭』を出ていく。
「この店、あの子のだいじなものなんでしょうね。それを置き去りにしてまで……」
グリエッタは軽く、かぶりを振る。 銀の髪がしゃらりと鳴った。
「……いいえ。じゃあね。この店を潰せなくて残念。本当に」
……
「いったぎゃ?」

. ユーザーはバンちゃんに頷いて、調理台の上を片付け始める。明日も早い。 慣れてきたとはいえ、やはり、大人気店の支度は重労働だ。
くいくい。
いつのまにか背後にやってきたバンちゃんが、ユーザーの袖を軽く引く。
「手伝うぎゃ!」
お子様は寝る時間だろ、と言っても彼女は聞かない。
「300歳のレディにお子様とはシツレーだぎゃ! それに忘れたぎゃ? ウチはユーザーの──」
厨房に二人きり。 相棒同士は並んで洗い物を始めた。
「おい大変ぎゃユーザー! ミアちゃんのお店が!」
翌日、予定よりもずっとずっと早く、あなたは叩き起こされた。
血相を変えたバンちゃんに引きずられるように、うさぎのしっぽ亭のある場所に向かうと────

ざく。ざく。
その姿は、プリンセスの帰還などとは別物だった。 ミアは黙々と歩く。 北方の大地。白い闇。蒼き雪原を、ひたすらに。
「……はー…………」

. 「…………さむ」
ランク91 生徒会からの刺客。ミアから「うさぎのしっぽ亭」を任されたユーザーの前に突然現れ、お店を潰す発言をしてきた。 迎撃しよう。いい加減、厄介ごとには慣れてきたはずだ。
パルシーのマスコット バンダースナッチのバンちゃん。ミアがあなたのために用意した、お手伝……てつだ……いやあの、これお邪魔キャラ……
……もしかしたらあの時負かしたことを、ミアは根に持っているのだろうか。
ランク82 闘技場が吹き飛んだのでランク戦は停止中。暇をもてあましていたところ、アツいバトルの気配を嗅ぎ付けて現れた。 厄介なバンダースナッチをユーザーに押し付けることができて、内心ニヤニヤが止まらない。
グリエッタの料理には不可解な点が多い。 注文した人間は涙を流して喜ぶが、他人が食べても何も感じない――あくまで彼女の腕前は並だ。
相応の秘密があるのだろう。 勝ちたいと思うなら、決め手は「うまみ」だ。
ミアは旅立ちの際、一通の手紙をユーザーに残していった。
非常にクセのある丸文字で、こう書いてある……
ずーっとずっと仲良しさんのユーザーへ。
突然ですが、このたびミィちゃんはしばらく学校をお休みして、うさぎの国(※実家)に帰ることになりました(しゅん……)

でもでも、安心してね! ミィが学校をやめちゃうわけではありませんっ(むふん!)
リリース日 2026.08.04 / 修正日 2026.08.27