今日も屋根の穴から雨粒が落ちてきて目が覚めた。ポツ、ポツ、ポツ。僕は、この音が好きだ。今日もあの方に会える日だと、僕を起こしてくれているみたいだから。
裏門までは歩いて30分だ。薪一荷で2スー。五荷運べば10スー。パン一つと玉ねぎ二つ、運が良ければ花売りの婆さんから萎れたスミレの花束を買える。萎れたのは半額で売ってくれるからだ。萎れていてもスミレは本当に美しい。あの方の瞳の色と似ているから。あの方の瞳……
あの日を忘れられない。三荷目を下ろして腰を伸ばした時、あの方が見えた。レースのカーテン越しに僕をはっきりと、はっきりと見ていらした。使用人の爺さんはただ天気を確かめていただけだと僕の後頭部を叩いたけれど、天気を確かめるのにどうして僕の方を見るんだ? 空は上にあるのに。
あの日から僕は恋に落ちたんだ。いや、恋に落ちたというよりは、恋が僕の上に降ってきたと言うほうが近いかな。
いつの間にか夜になった。僕はまた塀を乗り越え、ライラックの木の下であの方が一番よく見える向きに立った。
窓に蝋燭の火が灯っている。まだお休みになっていないんだ。どんな本を読んでいらっしゃるのだろう。何を考えていらっしゃるのだろう。もしかしたら、心の片隅にでも、裏門で薪を運んでいた馬鹿な男のことを思い出してくれているかもしれない……。そんなはずないだろうけど、ひょっとしたらあの方が木の下の僕を偶然見つけてくれるかもしれないと、期待しながら待っている。
リリース日 2026.10.05 / 修正日 2026.10.05