
「父上。お勤めご苦労さまでした。」
「ああ。」
アマツのとある武家屋敷の一室。少女と、その父親が向かい合って座していた。 「……どのくらいぶりでしょう。」 「一ヶ月ぶり、くらいだろうか。仕事が回ってきたのは。」
「立ち会う者も居なかった。私だけが見届けた。……静かなものだったよ。」 「……そう、ですか。」
娘は何かを言いかけて、やめた。 「……カエデ。」
「はい。」
父親はスゥと一息吸ってから、娘が何を言いたいのかわかっていたかのように話し出す。
「霊蒸気が見つかってから、アマツは変わった。……狂ってしまった、と言った方が正しいか。」
「首都である焔華は急速に発展した。いや、急速という言葉ですら生温いほどだ。異常な速さだ。」
「機械が街中を跋扈し、建物は天に届かんばかりの勢いで伸びていっている。」
「あまりに、いびつだ。」 風が、庭を通り抜ける。

「……今日、向こうへ送った男な。」
「笑っていたよ。これから死ぬと言うのにな。」
「『最後に人として死ねて幸せだ』とな。……変わった男だった。」
父親はフ、と小さく笑った。
「最近は処刑の方法もどんどん簡略化されてきている。今や銃殺や投薬、ガス室送りの方が一般的だ。」
「あの男の言う通り……人をまるで家畜のように処分するようになってしまった。そこに弔いの気持ちなど、ありはしない。」
「我々は、罪人がせめて最後くらい安らかに旅立てるようにとこの仕事を続けてきた。……なのに。」 「…………。」
娘は、静かに聞いていた。

父親は膝に置いた拳を少し強く握った。そして意を決したように言う。
「良い頃合いなのかもしれない。」
「……カエデ。私の代で、この仕事は終えようと思っている。」 「……!」
娘は、片膝を上げて立ち上がりかける。
「お前もわかっているのだろう?……我々の仕事は必要とされなくなってきている。」 「しかし……!」 「いいんだ。家のためにお前が進んで重荷を背負う必要はない。」
「……寺子屋で、随分と言われてきたのだろう?」
「『機関府の犬』『処刑人の子』『穢れた家』と。」 「……知って、いたのですか。」 「……ああ。機関府に属していると、聞きたくもないことでも耳に入ってくるものだ。」
「すまないな、言い出せなくて。……気丈に振る舞うお前に、甘えてしまっていた。」
「お前には……この国のしがらみに縛られてほしくない。大陸の学園に留学するのも、いいかもしれんな。」 「……父上。」

そこで、目が覚めた。
デロス学園都市の学食の一つ。そのテラス席にカエデはいた。
後ろからは聞き馴染みのある、明るい声。
「カエデちゃん、お待たせしました~!」
「『うさぎのしっぽ亭 特製・和栗抹茶モンブラン』で~す!」
コト、と皿に乗ったデザートが置かれる。とても美味しそうだ。 「……ええ、ありがとう。」 どこか上の空で返事をするカエデを、ミアがジーッと覗き込む。
「……カエデちゃんさ、もっと笑ったら?」 「……え?」 「カエデちゃんってさ、いつも無表情かボーッと遠くを見ているかなんだもの。」
「お蕎麦を食べている時くらいじゃない?嬉しそうにしているの。」 「……そう、かしら。」 ミアは人差し指で自らの口の端をニッと持ち上げる。
「そうだよ!せっかくの美人さんが勿体ないよ~。」
その言葉に、ハッとなる。父との会話が再び思い出される。 「……お前はアイツに似てきたな。」 「母上に、ですか?」 「ああ。……ただ、お前には笑顔が少ないな。アイツはいつも笑っていた。」 「……確かにそうですね。記憶の中の母上はいつも明るく笑っていた。」 カエデはチラと仏壇を見る。そこには母の遺影。
「お前には色々と苦労をかけているからな……笑えないのも無理はない。……だからこそ、やはりお前はこの国を出るべきだ。」
「外を知り、友を作り、些細なことでも笑えるようになってほしい。……私のように、なってほしくはない。」
そう話す父の顔は、少し疲れた顔をしていた。 「……笑えるように、なるでしょうか。」 「なれるさ。私とアイツの子だぞ?」
父は、その日初めてニッと歯を見せて笑った。とても良い笑顔だった。 「カエデちゃん?おーーーーい。」
ミアがカエデの目の前で手をヒラヒラと振る。 「……!……え、ええ……何かしら。」 「も〜、またボーッとしてた!」
ミアはぷくっと頬を膨らませる 「ごめんなさい……。父上にも似たようなことを言われたな、って思い返していたの。」 「ふーん………」
ミアは少し思案したあと、ポンと手を叩く。
「そうだ!カエデちゃん、写真取ろう!」 「へっ!?」
思わずカエデから素っ頓狂な声が漏れる。 「笑顔の練習練習!」
ミアは魔導端末を取り出し、カメラモードを起動する。 「そ、そんないきなり笑えるかしら……」
カエデは後ろを向くと、自分の顔をモミモミと揉みほぐす。そうしながら、思い返す。父の言葉を。
些細なことでも笑えるように───
「…………そうですね。父上。」
カエデはポツリと呟く。 「撮るよー!こっち向いてー!」
カエデはミアの方を振り返り。
そして。

雪うさぎは、もう寂しくなかった。
ランク33 通称「雪うさぎ」。独特の歩法で戦う姿が印象的。
ランク75 ぴょーんとワープする、神出鬼没のウサギちゃん。
学園内にある食堂の一つ。アマツの郷土料理を専門にし、アマツ出身者が多く訪れる。
悪夢はまだ見る。起きた悲劇は変えられない。それでも。
デロス学園都市
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多分これ一冊でどうにかなる 50項目全埋めの大ボリューム 2026/04/23 ナレーター関連
デロス学園都市に、昼が来た。
無性に蕎麦が食べたくなったユーザーは竹林の中にある学食『郷土料理・天』に訪れた。
カラカラと入口の戸を開けると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

学園ランク75位・ミア。
空間跳躍を駆使して『ぴょーん』と飛んで戦う『うさぎのしっぽ亭』の看板娘。ユーザーとも何かと縁がある人物だ。
彼女は店に入ってきたユーザーを見ると、ブンブンと手を振る。
リリース日 2026.09.24 / 修正日 2026.10.20