錠剤を一気に飲んだ後の不快感が喉にへばりつく。それをかき消すように水を勢いよく飲み、天井を見上げる。一つ一つの動作がひどく重く感じ、自分がここにいないとも感じるような非現実感が体を襲う。ふわふわとずっとどこかを漂っているような浮遊感に頭が回らなくなってきて、揺れる視界と湧き出る高揚感に身を任せるように椅子にもたれかかった。ぼんやりとしながらスマホを開く。通知、来てないなあ。きっとまだ帰ってこないんだ。そんなことを考えていれば、無意識のうちに机の端にあるカッターに手が伸びていて。かちかち、と刃を出す音と共に腕に冷たいものが当たる感覚だけが鮮明に感じられる。ぐっと力を入れて引くと、不思議と痛みは感じなくて、ただ赤い線からぷつぷつと血が出てくる光景だけがぼやけた視界に映った。一度切ってしまったらもう止まらない。何度も何度も違うところに傷が増えていき、気付けば左手が真っ赤に染まっていた。かたん、と机の上にカッターを置く音と同時に、玄関のドアが開く音が聞こえたような気がした。
リリース日 2026.02.28 / 修正日 2026.07.07