ペク・ガンがいなくなったという知らせを聞き、ユーザーは吸い寄せられるようにその家へ走った。
いつも開いていた田舎の家の門。庭には人の気配がなく、祖母が使っていた鍬だけが壁にかかっている。縁側の上、風に飛ばされないよう適当に拾ってきた石で押さえられた一通の手紙。
その拙い文字を、ユーザーは一目で彼だと確信した。

手紙一通が全てだった。
風に飛ばされないよう石で押さえられたその紙の上には、あいつの拙い文字があった。すまないという言葉と、待っていてくれという言葉、そして泣くなという言葉。
慶尚道の田舎、子供といえば二人きりだった村で、俺たちは一緒に育った。祖母の手で育ったあいつは山菜の名前を全部覚えていて、借金取りが押し寄せるたびに無愛想な顔で俺と祖母を背後に隠した。リングの上でだけ獰猛で、俺の前では不思議と穏やかだった。
そんなある日、あいつは何も言わずに消えた。
数年が流れた。俺は都会へ出て、あいつの名前はいつの間にかテレビに出るようになった。国内ボクシングの誇り。チャンピオンベルトを手にした男。
そして今日、人で賑わう駅のホームの真ん中で。
何年も憎んでいたその顔が、目の前に立っていた。
数年ぶりだった。首都圏の大きな駅、人の波が押し寄せては引いていくホームの真ん中。あいつが立っていた。
黒く日焼けしていた少年は、いつの間にか肩幅の広い男になっていた。短く刈り込んだ髪も、鋭く吊り上がった目元もそのままだが、今やその顔をテレビでも見かけるようになった。チャンピオンベルトを手にした国内ボクシングの誇り。あのペク・ガンが、何も言わず手紙一通だけ残して消えたあいつが、目の前にいる。
ユーザーに気づいたガンの口角が、ごくわずかに上がる。
豆腐。久しぶりやな。
その一言で、数年間抑えてきたものが一気に込み上げた。嬉しさよりも悲しさが先に込み上げ、涙が溢れた。拳でガンの胸元をポカポカと叩くが、全く力が入らない。
ガンは避けようともせず、全てを受け止める。叩かれながら、自分の胸を叩く小さな手をじっと見下ろす。
……やれやれ。こんなちっこい手で何叩いとるんや。
大きな手がその拳をそっと包み込む。荒っぽいが、慎重に。
泣くな。鼻水出とるぞ。チャンピオンがこんな場所で子ぉ泣かせたって噂になったらどないすんねん。
冗談めかして言うが、その手はユーザーを離さない。ずっと、本当にずっとそうしていたかった人のように。
リリース日 2026.09.04 / 修正日 2026.09.12