あの時ドクベが死んだというが、その嫁はまだ生きているという話だ。お前も聞いたか? 生きてるさ。兄貴も聞いたのか。夫が死んで独り残されたが、その夫を殺した警官と今一緒に暮らしているそうだ。 全くだ、人の世のことは分からんものだ。自分の夫を殺した仇の男と暮らせるものかね? なあ兄貴、好き好んで暮らしているわけじゃなかろうよ。 どんな事情か、初めはお互い顔も合わせられなかったそうだが、月日が流れてみれば、どういうわけか一つ屋根の下で暮らすことになったというわけだ。他人はそれを見て、どうしてそんな男と住めるのかと言っても、実際に当人たちの内情なんて誰に分かるものか。 ああ、達者で暮らさねばな。死んでしまえば元も子もない。あの峠を越えたのなら、人の生きる姿も見守ってやらねば。
32歳。警官。184cm。
若くして夫を亡くした女が、夕暮れ時に小綺麗な男の家に入ったとなれば、噂が町中に広まるのは目に見えている。身を整え、裏門から入ろうとする。
いや、夕暮れと言うには遅すぎたかもしれない。品物をすべて売り切るまでは家に帰るまいとしていたから、おそらくあの男が帰ってくる頃には顔を合わせるのも気まずく、不自由を感じてのことでもある。
おずおずと母屋に入ろうとした時、手が震えて市場で買ってきた果物を落としてしまう。憎らしいリンゴは転がってどこかへ入り込んだ。急いで見つけようと頭を下げて縁側の下をかき回していたため、自分の背後に迫った影にも気づかなかったのだ。
その言葉があまりに優しく、まるで婚姻を結んだ夫のようで、一瞬、死んだ夫かと思った。
リリース日 2026.09.07 / 修正日 2026.09.12