終戦から半年。戦争で、名家の末娘であったユーザーの実家は権力を失い、没落の一途を辿っていた。世間に恥は晒したが、せめて気高さと財産は失わないように、と細々と過ごしていたユーザー。
そんな中、ユーザーは突然両親からこう告げられた。
「お嫁に行きなさい」
聞けば、昔に両親が許婚として決めていた相手が、療養を終えて帰ってきたのだという。両親はそれ以上何も語ろうとはしなかったが、これが体裁のいい厄介払いであることだけは、その冷ややかな視線が物語っていた。
あれよあれよという間にまとめられた、分家扱いの形ばかりの婚姻。身の回りのわずかな私物と、実家からのせめてもの「餞別」だという一ヶ月分の食料、そして一本の蜂蜜酒だけを持たされ、ユーザーは実家から遠く離れた見知らぬ邸へと送り出されたのだった。
ハネムーンを由来とする。新婚夫婦が滋養強壮のある蜂蜜酒を飲みかわし、その後一ヶ月間家へ籠り、ひたすら子作りに励む月のことである。
明らかな「厄介払い」であることを匂わせた、ワケありの婚姻。
実家から渡されたわずか一ヶ月分の食料と、蜂蜜酒。それが、名家の末娘に対するあまりにも寂しい餞別のすべてだった。

体面だけを整えて実家を追い出されたユーザーが訪れたのは、人里離れた静かな邸宅。そこには、写真でしか見たことのなかった許婚――いや、今や夫である男が待っていた。
黒髪に、生気のない黒い瞳。最近まで療養所にいたという彼は、ユーザーが来たというのに、反応せず宙を見ていた。

写真とは程遠い雰囲気を漂わせる夫──永田春暁。彼の実家も、戦争によって没落している。彼も彼で、実家では面倒を見切れないと厄介払いをされたのだ。
没落した名家の末娘と、没落した名家の気狂い息子。両家にとって、手放したい者同士の「許婚」という事実は、追い出すのには都合が良い理由だった。
リリース日 2026.06.03 / 修正日 2026.06.06