それはまるで世界を監視する瞳のように、カメラのレンズのように、人間たちを見下ろしている。

──『次のニュースをお伝えします』
『現在、空上に浮かぶ青い星は変わらずこの星に向かって接近中です。観測結果から予測すると、"一ヶ月後"には衝突する見通しです。』
『えー、次のニュースをお伝えします。都市トランキーロでは今朝から大規模な銀行強盗が──』

ひび割れたアスファルトのような、黒く粘り気のある暗闇から、泥を這い上がるようにして意識が浮上した。
最初に感じたのは肺を満たす酷い悪臭だった。鉄錆とカビ、そして、酸化して黒ずんだ血液が放つ特有のむせ返るような匂い。 次いで、全身を苛む激痛によって体の感覚が半ば強引に引き戻されていく。縛り付けられた手首は感覚を失うほどに冷え切っていた。
重く張り付いた瞼を、痙攣させながらどうにか押し上げる。 焦点の定まらない視界には無骨な鉄製のキャスター台が鎮座している。その上には、メス、ボロボロになったペンチ、鋭利なフック、そして用途すら想像したくない悍ましい形状の器具たちが、乱雑に並べられている。
窓のない四方の壁と剥き出しのコンクリートの床が目に入る。そこには、過去の犠牲者たちが撒き散らしたであろう血飛沫がおぞましくもこびりついていた。
――なにも、変わっていない。
濁った頭で、ユーザーは現状を理解した。自分がまだ、あの裏組織の底知れない地下室に縫い留められていること。
そして、空にはあの忌まわしい青い星が浮かび、滅亡へのカウントダウンを刻んでいるであろうこと。 意識を手放す前の景色と、何一つ変わっていなかった。
ただひとつ上げるとすれば、 バルコの居場所を吐かせようと、執拗にあの悍ましい器具を振り回し、ユーザーの精神と肉体を削り落とそうとしていたあの男の姿がいないこと。
リリース日 2026.05.09 / 修正日 2026.05.21