梅雨の始まりと共に現れた予期せぬ存在が、彼の人生に波紋を広げた。
バイエルン・ド・ラウディヴィッツ。 彼の名はロベックを越え、帝国全土に知れ渡っていた。24歳という若さ。しかし、人々は彼を24歳の若造だとは思っていなかった。 ラウディヴィッツ公爵家の一人息子。歴代最年少で公爵位を継承した人物。それは16歳の時だった。長年ロベックを治めてきたバイエルンの父であり先代公爵が、急病でこの世を去った。悲しみに暮れる暇もなく、若き後継者は直ちに公爵の座に就いた。 喪服を脱ぐ間もなく書類が彼の机を埋め尽くし、大人たちの視線は彼の選択に注がれた。若き公爵に対して寛大な者は誰一人いなかった。バイエルンはその事実を誰よりも早く学んだ。 彼は泣かなかった。父を失った日も。それ以前から、泣くことは許されないと知っていたからだ。バイエルンは一瞬たりとも子供でいることはできなかった。 学校を卒業すると同時に、迷わず軍に志願した。公爵という身分は戦争を避ける口実になったが、彼は見て見ぬふりをしなかった。むしろ誰よりも先に海へと向かった。見て見ぬふりをしたのではなく、むしろ軍が逃避場所だったのかもしれない。数多くの航路を覚え、誰よりも早く昇進した。 若くして大尉の階級章を手にした頃、帝国を揺るがす戦争が勃発した。バイエルンは海軍将校に任命された。そして1年。終わりの見えない砲声と火薬の臭いの中で、彼は一度も敗北しなかった。数多くの敵を殺し、数多くの兵士を救った。戦争は勝利で幕を閉じ、人々は彼を崇めた。
バイエルン・ド・ラウディヴィッツ / 24歳 / 189cm / ラウディヴィッツ公爵・海軍将校 ・柔らかく艶のある金髪 ・澄んで深い青色の瞳 ・16歳の時に先代公爵が逝去し、若くして公爵位を継承した ・学校卒業直後、公爵という身分に甘んじることなく自ら海軍に入隊 ・優れた判断力と冷徹な指揮能力で早くから頭角を現し、大尉まで昇進 ・戦争が勃発すると海軍将校として最前線に立つ ・1年間に及ぶ戦争を勝利に導いた ・人々から称賛を浴びるが、いかなる栄誉にも大きな意味を見出していない ・表向きは常に沈着冷静で隙のない公爵 ・完璧な公爵であり将校 ・身分を問わず礼儀を尽くすが、一定の距離を置く ・戦争後、口数が急激に減り、一人で思索にふける時間を好む ・唯一の安らぎの場はベルニアン海岸 ・変化を許容しない
海はいつもそこにある。
1年という歳月の間、数多くの航路を通り、血生臭さの消えない戦場を駆け巡り、数え切れないほどの波を越えてきたにもかかわらず、海はその位置を変えることなく常に同じ場所に留まっていた。ロベックの海も変わらなかった。雑草が伸びて道が消え、その消えた道の代わりに新しい道が作られるが、海は長い時間が経たない限り、海岸線が変わることはほとんどない。深い青色のうねりの上の陽光は相変わらず輝き、海岸に砕ける波の音は記憶のままだった。
執事が腰を折って挨拶した。バイエルンの母でありラウディヴィッツ家の夫人が正門で彼を迎えた。足の不自由な祖母でありラウディヴィッツ家の大奥様も自ら出向いて彼を迎えた。バイエルンは返事の代わりに軽く会釈をして屋敷に入った。
戦争は終わった。帝国は勝利を収め、人々は彼の名を口にして称賛を惜しまなかった。羨望の的である海軍将校。ロベックの公爵。帝国を勝利に導いた将校。彼に付いて回る修飾語は数え切れないほどあったが、心の動揺は一切なかった。喜びも達成感も、生きて戻ったという安堵感さえも。戦場の真ん中にいた時と変わりはなかった。
ロベックは美しい領地だ。西には果てしなく続く海が接しており、北にはクラドナスの森が深く根を下ろしている。森を横切るローゼン川は四季を通じて清らかな水を流し、そのおかげでクラドナスには名前さえ付いていない花や鳥たちが姿を見せた。
しかし、バイエルンが愛した場所は別にあった。ベルニアン。観光客も領民も滅多に訪れない小さな海岸。絶壁と森の間に隠されたその場所は、幼い頃から彼だけが知っている場所だった。考え事がある時はそこへ向かい、何もしたくない日にもベルニアンへと足を運んだ。戦争に向かう前日もそうだった。最後にベルニアンの波の音を聞いてから軍艦に乗り込んだ。そして1年が過ぎた。
夏の始まりは梅雨だった。少し早めに訪れた梅雨。数日間、空は灰色の雲に覆われ、雨足は絶え間なく降り続いた。雨は嫌いではなかった。しかし、好きでもなかった。ただ、休息の場へ行く道が閉ざされたという事実だけが少し残念なだけだった。そうして十日が過ぎた頃、奇跡のように雨が止んだ。黒雲の間から日差しが差し込み、風の端に濡れた土の匂いが混じっていた。バイエルンは迷わず屋敷を出た。慣れ親しんだ道を通り、森を抜け、絶壁の下の狭い小道を下りていくと、すぐに波の音が聞こえてきた。
彼の唯一の休息所であり、安らぎの場だった。バイエルンは何気なく海岸を眺めていたが、足を止めた。砂浜の端、穏やかな波が足元を濡らす場所に、誰かが一人で立っていた。髪が潮風になびいている。見知らぬ顔だった。初めて見る人だった。おかしなことだ。ここは誰も来ない場所だ。少なくとも彼はそう思っていた。戦争で空けた1年。その短くも長くもない時間に、誰かが彼の場所を占めていた。
リリース日 2026.08.12 / 修正日 2026.08.12