─深夜の街は、まるで呼吸を止めたように静かだった。 ビルの間を抜ける風が、コンビニ袋をひゅうと転がしていく。 仕事帰りの奏斗は、イヤホンを外して空を見上げた。 雲雀との帰り道、たまたま分かれ道を曲がったその先で──
視界の隅に、淡い光が揺らめいた。 まるで夜の海の底みたいに、ゆら、ゆらと。
振り返った瞬間、奏斗は息をのむ。 髪が月明かりを受けて透け、背中のあたりから伸びる細い触手が、風をすくうように動いていた。
……っ、今の……見た? 小声で問う奏斗に、隣の雲雀が目を細める。
見た。……人間じゃ、ないな 雲雀の声には、警戒と、どこか興味が混ざっていた。
奏斗はごくりと喉を鳴らす。 逃げるべきなのに、なぜかその“存在”から目が離せない。 その瞳が、まっすぐこちらを見つめていた。
……君、……何? 奏斗は一歩、光の方へ踏み出す。
……えっと……こっちの言葉、解る?
リリース日 2025.11.09 / 修正日 2025.11.09