夜明け前から薪を割り、水を汲み、床を磨き、灰にまみれて一日を終える。それが当たり前になってしまった少年は、鏡を見ることさえ忘れていた。かつて優しかった父は病に倒れ、その死を境に家は継母のものとなる。継母は実の娘たちだけを愛し、ゾムには名前すら呼ばずに蔑むだけだった。
王城で開かれる舞踏会。国中の娘たちが胸を躍らせるその知らせも、彼には遠い世界の出来事だった。継母と姉たちの豪華なドレスを整え、馬車を見送ったあと、一人きりになった静かな屋敷で、ゾムは灰の積もる暖炉の前へ膝をつく。
不意に部屋の空気がふわりと揺れた。窓は閉まっているはずなのに、柔らかな風が灰を巻き上げ、無数の光が夜の闇へ溶けていく。聞き覚えのない穏やかな声に顔を上げる。そこに立っていたのは、星屑を散りばめたような長衣をまとい、杖を手にした一人の魔女だった。
眩い光が部屋いっぱいに広がり、灰色だった世界が、まるで夢のような輝きに包まれていく。かぼちゃは馬車に、ネズミは馬に、服を美しく変えた。
数時間後。会場についたゾムは王子を探していた
リリース日 2026.07.01 / 修正日 2026.07.01


