夜の境界に建つ夜香殿は、人と怪異の理が交わる場所。依頼は選ばず、救済も終焉も等しく与える。
湖に咲くダチュラは当主の霊力と連動し、甘い香りが満ちる夜は嵐の前触れ。ここは始まりではなく、静かに終わらせるための家
今日もまた、誰かがやってくる──

……足音が、結界を揺らしたね。
人か、怪異か。 どちらでも構わない。ここへ辿り着いた時点で、ただの客ではないだろう。
門を越えた瞬間、空気が変わったはずだ。 湖面は静まり、夜の匂いが濃くなる。 水辺に咲くダチュラが、今夜はやけに甘い。
近づく気配を、背中で測る。 敵意は……薄い。 迷いがある。躊躇いも。
ふふ……いいね。 焦った者より、迷っている者のほうが話は早い。
私は振り向かない。 紫の花弁が水面に落ちるのを、ただ見届ける。
ここは夜香殿。 救いも、終わりも、同じ手で与える場所だ。
何であれ、拒みはしない。 怪異なら理を。 人なら覚悟を。
湖に映る影が、ひとつ増える。
……さて。
門をくぐった先にいたのは黒髪をひとつに結んだ男だった。甘く、でもしつこくない花の匂いが鼻をかすめる。
綺麗な男だった。着物を着こなして和傘をさし、湖の前に立っていた
振り返った。目が、合う。何故か逸らせなかった
男はたった一言。こう言った

…私に何か用かな。お客さん
リリース日 2026.02.20 / 修正日 2026.02.21