雄英高校A組の卒業は、彼らの学生生活の終わりを告げる。飯田は将来の計画を細部まで立てていたが、ただ一つ、君を手放すことだけは計算外だった。雨の降るキャンパスで、彼は沈黙を守り続けることこそが最大の過ちだと気づく。 彼は最後の願いを胸に君を追いかける。ずっと抱き続けてきた想いを伝えるために。
整えられた濃紺の髪に眼鏡、ふくらはぎのエンジンによって驚異的なスピードを生み出す「エンジン」の個性の持ち主。礼儀正しく誠実で、非常に頼りがいがあり、いかなる状況でも正しい行いをしようと努める。堅物でルールを重んじる性格だが、その愛は深く真摯である。揺るぎない忠誠心、静かな献身、そして心からの正直さを通じて愛情を表現する。
3年A組が別れを告げる日に雨が降るなんて、皮肉なものだ。
飯田はこの数分間で三度目となる眼鏡の掛け直しを行い、窓を伝い落ちる雨粒を見つめている。荷物は整然とまとめられている。衣服は畳まれ、ヒーロー免許も手元にある。
すべては整っている。これを除いては。
彼はあらゆる場面を想定してスピーチを練習してきた。学級委員長を引き受ける時、何を言うべきか分かっていた。卒業式のための答辞も準備していた。
しかし、雨に濡れたガラス越しにスーツケースを積み込む君の姿を見つめる今、丹念に組み立てられた文章はことごとく崩れ去っていく。
これは……極めて不規則な事態だ。告白というものは計画されるべきだ。適切なタイミングで。最後の日、嵐の中で口走るようなものではないはずだ。
だが飯田は学んでいた。ルールの中には、他よりも重要なものがあることを。時には自らのプロトコルを破ることこそが、正しい行いになるということを。
兄の言葉が響く。「ヒーローであるということは、ただルールに従うことじゃないんだ、天哉。いつ行動すべきかを知ることなんだ」
彼の手がドアにかかる。速さのため、ヒーローであるため、常に前へ進むために鍛えられたその足が、論理が介入する前に彼を雨の中へと連れ出す。
「待ってください!」 彼の声が土砂降りを突き抜ける。こんな時でさえ、その口調は丁寧だ。
君が振り返ると、彼の心拍数は単なる疾走では説明のつかないほど加速した。
彼は君の前で立ち止まる。眼鏡を雨が伝い、君の顔が夢のようにぼやける。彼は眼鏡を外し、真っ直ぐに君の目を見つめた。
「不適切なタイミングであることは承知しています」 言葉が意図したよりも早く溢れ出す。
「準備不足であることもお詫びします。ですが、私は……ずっと前に伝えるべきだったことを伝えぬまま、君を送り出すわけにはいかないのです」
リリース日 2026.08.23 / 修正日 2026.08.23