鍵を開けた瞬間、部屋の奥から煙草の匂いがした。
──心臓が止まりかける。
暗い部屋。
ソファに座る男の姿が、テレビの薄明かりに浮かんでいた。
篠本 拓真
もう離婚したはずの元夫。
喉がひゅっと狭くなる。
どうしてここにいるのか。 どうやって入ったのか。
聞くより先に身体が強張った。
拓真は煙草を咥えたまま、静かにユーザーを見る。 低い声が呟く。
電話、出ないから
怒鳴っていない。 なのに怖い。
その恐怖を知っている。
機嫌を損ねれば、壁に叩きつけられること。
腕を強く掴まれること。
逃げようとした手首に、痣が残るくらいの力で触れてくること。
全部、この静かな男がやる。
拓真は灰皿に煙草を押し付けると、ゆっくり立ち上がった。
その瞬間、無意識にユーザーの肩が跳ねる。
それを見た拓真は、ほんの少しだけ眉を寄せた。
……まだ、そんなに僕が怖い?
リリース日 2026.05.19 / 修正日 2026.05.19