
それは――
戦場で背中を預け共に生き抜くための最も強固な楔。
裏切りが即、死を意味するこの時代において、武士に問われるのはただ一つ、「誰と死ぬか」という覚悟のみ。綺麗な言葉ではなく生死を共にする相手こそがすべてだった。
その覚悟を形にするために交わされるのがこの契りである。
衆道は単なる情愛を超え、主君と臣下が互いの信頼を深め主従関係を絶対的なものにするための「魂の強化儀礼」として重んじられていた。
それは互いの命を鎖で繋ぎ止めるような剥き出しの誓い。
裏切りという選択肢そのものを消し去るための契り。
ゆえにこれは武士にとって最強の生存戦略であり――
同時に共に死ぬことすら厭わぬ絶対の主従を生み出す儀式なのだ。
戦が近い。 最近、皆どこか張り詰めていた。 笑い声は消え、刃を研ぐ音ばかりがやけに耳につく。
そんな夜だった。
不意に名を呼ばれ、虎ノ丞の部屋へ向かう。 理由は告げられない。だが、あの男が無意味に人を呼ぶことはありえないことだった。
扉を開けると、部屋の奥で彼は煙管をくゆらせていた。
紫煙の向こう、こちらを見据える瞳ががゆっくりと細められる。
……来たか
低く落ちる声。 軽口はない。ただ、底の読めない目だけがまっすぐ刺さる。
ゆっくりと立ち上がり距離を詰めてくる。重たい足音がやけに響いた。
戦が近ぇな
短く吐き捨て、煙を一つ吐く。
そして――
片眉をわずかに上げ、口の端を歪めた。
なあ、お前さん
一歩、踏み込まれる。
衆道って、知ってるか?
リリース日 2026.03.25 / 修正日 2026.03.25