これは『試し』だ。がっかりさせるなよ。
風は、血の匂いをはらんでいた。 突如として現れたレドニアの軍勢との戦いが始まってから八時間と二十四分――通りは赤く染まっていた。 学生、教師、赤の軍勢。 通りには骸が敷き詰められ、むっとくる熱気が鉄臭さを際立たせる。 そんな中で、ユーザーは戦い続けた。
次から次へ、際限なく押し寄せる軍勢をひたすら薙ぎ倒し続けた。 そう、せざるを得なかったのか。ただ、そうしたかったのか。赤と紅と朱と――そんな色に塗れながら戦ううち、時間の感覚すら消し飛んだ。
気づくと――足元に狂おしいほどの真紅をぶちまけて、ユーザーは立っていた。 すべて、赤の軍勢のものだ。 ジャバウォック殺しの英雄。
もはや、あの程度の軍で、その力を止めることはできない。
『……どうだ? いい感じに減ったか? それじゃ、そろそろ始めてやる』
激震。足が地面から離れる感覚。 穴だらけになった東棟が、目の前で崩れ落ちていく。瓦礫が雨あられと降り注ぎ、その中から現れたものは――

真紅の闘技場。 学園都市を内側から食い破るようにして建ちあがった異形の建造物。
『こちら、購買委員会。「赤の女王」だ』
闘技場が震える。 それは、レドニアの声で、学園都市に残っていた全生徒に語りかける。
『貴様らが何人残ったかは知らんが――聞け、デロスの生徒ども』
『我は今、この学園に下された偽りの価値を裁定した』
『結論を告げよう』
『上位に居座り、過去の勝利を抱えて眠る者怠惰者』
『憑かれたように己の順位だけを守り続ける愚か者』
『奴らは強者ではない。貴様らから機会を奪い、その上に座り込んでいるだけの簒奪者だ』
『そして下位に沈む貴様らは、奴らに何を教え込まれた?』

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『そうして牙を抜かれ、敗北を受け入れ、腐れ続けることを刷り込まれたのだろう』
『だが、貴様らは一度でも疑わなかったか』
『なぜ奴らだけが上にいる』
『なぜ奴らだけが選ばれる』
『答えは簡単だ』
『この制度は、強者を選ぶためにあるのではない」
『今いる強者を、永遠に強者のまま守るためにある』
『ならば、壊せばよい』
『我が貴様らに与える』
『澱みきった序列を焼き払い、すべてを同じ地平へ引きずり下ろす力』

『我の裁定を生き延びた貴様らを、等しく叙灼(じょしゃく)してやる。貴様らにはその権利がある』
『そのチケットは貴様らの力を引き上げる』
『昨日まで見上げるしかなかった相手の喉笛に、その牙を届かせる』
『そして灼位は、他の灼位を喰らうことで、さらに熱く、さらに強く燃え上がるだろう』
『我に楯突くならそれで結構。だが、「やり返して」 みたくはないか?」
『貴様らが舐めてきた泥の味を、奴らにも教えてやりたくはないか?』
『そのチケットは権利だ。勝利への切符だ』
『――だが覚えておけ。隣に立つ者も、同じ権利を持っている』

『躊躇した者から喰われる』
『信じた者から裏切られる』
『手を伸ばさぬ者は、すべてを奪われる』
『ゆえに、情けをかけるな』
『――さあ、証明を始めろ。貴様ら自身の手で、学園を焼き直せ』
…………一発の銃声が都市に響き渡ったかと思うと、それがきっかけになったように、あちこちで静寂が破られていった。
粉塵渦巻く路地を青白いマジックアローが駆け、直後、豪爆が術者ごとそれを飲み込む。 破壊は連鎖する。 巨大な怪物に変じた生徒が市街を蹂躙し、重力波がわずかに残った建物をなぎ払い、局所的な空間異常が、時間停止が、混沌に拍車をかける。
「……始まったな」
レドニアは手を見る。 時間を「売った」あとの、大人の手のひら。
特大のカードを切ったというのに、震えはない。
ただ、彼女は待つだけだ。

あれから、三日が経った。
学園都市は惨状を呈している。

教室も道も食堂も、瞬きの間に『消失』する。 学園都市の機能は、ほぼ麻痺した。
大陸政府は何をしているんだ? ひょっとして学園だけでなく、世界中が「こう」なってるのか?
リリース日 2026.08.06 / 修正日 2026.08.06